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 今、遥人は酷く混乱している。  そして、玲の内側の動揺も、その行動から推察できた。 「そうだね」  玲の顔を見上げた遥人は、目を逸らさずに返事をする。やはり綺麗な顔をしている……などと考えてしまうのは、無意識のうちに現実逃避をしているからなのかもしれない。 「玲、疲れただろ。俺も凄く疲れた。だから……少し眠ろう。起きたら帰るから」  だから、今の時点で春日を呼び出す必要は無いと告げながら、遥人は玲の手首を引っ張りベッドの上へと横たわった。  玲の返事は聞こえないけれど、抵抗もせず遥人の言いなりになっているということは、答えは否ではないのだろう。  ここまでの出来事で遥人はかなり疲弊していた。  きっと……話の途中なのにも関わらず「帰っていい」と告げてきた玲も、自分と同じなのではないかと思えたから、もう少しだけここで玲と話をしたいと考える。   ――このままじゃ……ダメだから。  会話で全てが解決するとは思わないけれど、今は思考を整理する時間が欲しかった。  このまま話を続けていても堂々巡りになるだけだ。 「ちょっとだけ、そしたら……」  遥人が手首を離した刹那、ふわりと掌が包まれる。玲は何も話さないけれど、こちらの気持ちは伝わったようで、大きく一つ息を吐き出すと……遥人より先に瞼を閉じた。  そんな彼の寝顔をぼんやり瞳に映しているうちに、ピリピリとした緊張感に満たされていた部屋の空気が、ほんの少し和らいだような気がしてくる。 「……おやすみ」  気が緩んだのか? 瞼を閉じるとすぐに眠気が舞い降りて――。 「おやすみ」という玲の返事にコクリと頷き返した遥人は、うつらうつらしているうち、いつの間にか深い眠りへと落ちていた。

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