302 / 338
6
今、遥人は酷く混乱している。
そして、玲の内側の動揺も、その行動から推察できた。
「そうだね」
玲の顔を見上げた遥人は、目を逸らさずに返事をする。やはり綺麗な顔をしている……などと考えてしまうのは、無意識のうちに現実逃避をしているからなのかもしれない。
「玲、疲れただろ。俺も凄く疲れた。だから……少し眠ろう。起きたら帰るから」
だから、今の時点で春日を呼び出す必要は無いと告げながら、遥人は玲の手首を引っ張りベッドの上へと横たわった。
玲の返事は聞こえないけれど、抵抗もせず遥人の言いなりになっているということは、答えは否ではないのだろう。
ここまでの出来事で遥人はかなり疲弊していた。
きっと……話の途中なのにも関わらず「帰っていい」と告げてきた玲も、自分と同じなのではないかと思えたから、もう少しだけここで玲と話をしたいと考える。
――このままじゃ……ダメだから。
会話で全てが解決するとは思わないけれど、今は思考を整理する時間が欲しかった。
このまま話を続けていても堂々巡りになるだけだ。
「ちょっとだけ、そしたら……」
遥人が手首を離した刹那、ふわりと掌が包まれる。玲は何も話さないけれど、こちらの気持ちは伝わったようで、大きく一つ息を吐き出すと……遥人より先に瞼を閉じた。
そんな彼の寝顔をぼんやり瞳に映しているうちに、ピリピリとした緊張感に満たされていた部屋の空気が、ほんの少し和らいだような気がしてくる。
「……おやすみ」
気が緩んだのか? 瞼を閉じるとすぐに眠気が舞い降りて――。
「おやすみ」という玲の返事にコクリと頷き返した遥人は、うつらうつらしているうち、いつの間にか深い眠りへと落ちていた。
ともだちにシェアしよう!