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『どうしたいの?』  暫ししてから頭の中へと響く声。変声期を迎える前と思われる少年の声を、遥人は聞いたことがある。  どこかたどたどしく聞こえる口調は、間違いなく幼少時代の遥人自身のものだった。  ここが、夢の中だということを、本能的に悟った遥人は声のほうへと視線を向けるが、漆黒の闇に包まれている空間に……人の姿を見つけることは不可能だ。  『どうしたいの?』という問いに、どう答えればいいのか分からず、遥人はその場に立ち尽くし、「わからない」と呟いた。 『どうして? 自分のことなのに』  次に遥人へと語りかけたのも、やはり子供の声なのだが、最初に聞こえた幼い自分のものとは明らかに違っている。  明瞭で凛としている意志の強そうな澄んだ声。  それが、玲の声だと悟った遥人の心拍数は自然と上がった。 「自分のこと……」    確かに……幼い玲の声が言う通り、自分自身の事なのだから、『分からない』と返事をするのはおかしな話なのだろう。 「どうしたい……か」  これまで……遥人は自分がどう動いたら、他人に迷惑をかけずに済むかをずっと考え続けていた。だけど、自分自身がどうしたいのかを考えたことは、ほとんど無かったような気がする。

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