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――分からない。
自分自身の感情が分からず、前後不覚に陥った遥人は暗闇の中でしゃがみ込み、頭を左右に大きく振る。すると、震える背中を小さな掌がそっと優しく撫でさすった。
そのぬくもりの優しさに……遥人はゆっくり顔を上げ、上手く言葉にならない思いを、順序立てることもしないで浮かんだまま声にする。
「ホントは……気付いて欲しかった。目立たないように、誰にも気にされないようにすることが、間違えて生まれた俺への罰なんだって……思ってたけど、ホントは……誰かに必要とされたかった。けど、そんなこと、言えるわけなくて……。そんなとき、俺の世界に玲が入り込んできた。どうして俺ばっか……酷い目にあうのかって思った。疲れて、諦めて、玲のせいにして、考えることをしなくなった。玲の気持ちを考えなかった。ホントは、気付いてたのに……」
ずっと、都合の悪い全ての事から遥人は目を逸らしていた。
受け身でいれば常に他人や周りのせいにできたから。
本当は分かっていた。
玲が……高校最後の定期テストでわざと成績を落としたのは、外部受験を強く希望する遥人の気持ちを知っていたから。
勉強を教えてくれたり、体調を気遣ってくれたり、激しく体を求めた後には必ず体を綺麗にしてくれた。
――こんな風に考えるのは、良い傾向じゃないって……長瀬さんには言われたけど。
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