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 以前、長瀬と話をしていた際、『玲にも優しいところがあった』と遥人が言うと、それこそが……DV被害者達の多くが抱く感情なのだと説明された。実際、彼の言うことに間違いは無いのだろう。  けれど――。    時折、玲が酷く疲れた様子だったのは、祖父に言われて女を抱いていたからだろうか?   それについてはつい先刻……打ち明けられたばかりだが、自分と一緒にいるために、そんなことまでしていたと聞いて、心が揺れないわけがない。 「もし、許されるなら……俺は、玲を……抱きしめたい」    ようやく絞り出した本音は、誰の理解も得られないだろう。だけど、偽りのない今の遥人の気持ちだった。 「おかしいのは分かってる。けど……それでも、俺は……」  『抱き締めたいと思った』と……掠れた声で喘いだ刹那、暗闇だった世界が突然明るい光に包まれる。  恐る恐る顔を上げれば、うずくまっていた遥人の前に、幼い頃の玲と自分が二人並んで立っていた。 「あ……」  こちらに笑みを向ける二人へ何か声をかけたいのに、口を開けば嗚咽が漏れ、とてもまともな言葉にならない。  泣きながら、二人の方へと遥人は必死に片手を伸ばすが、それは彼らに届くことなく、夢の中だというのに意識が再びプツリと途絶えてしまい――

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