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「……」
そのまま……不思議な夢から覚めた遥人は、至近距離から自分を見つめる玲の瞳を見た途端、衝動的に伸ばした腕で彼の背中を抱きしめた。
「……どうした?」
「ダメ……かな?」
驚いたように一瞬体を硬直させた玲に尋ねれば、「ダメじゃないけど、驚いた」
と答えた彼が、目を眇めて遥人の頬を撫でてくる。
「……俺、玲のことが、好きみたい」
優しい掌に頬を擦り寄せて遥人が小さく呟くと、「知ってる」の声が聞こえて強く体を抱き締められた。
***
「知ってる」
驚きのあまり声が微かに上擦ってしまったけれど、それでもどうにか理性を保ち玲は平静を装った。
“知ってる”などと答えてみたが、それは玲の本心ではない。しかし、ずっと欲していた言葉を、遥人の唇が紡いだのだ。どんな真意があるとしても、今の玲には否定することができなかった。
「玲、い……痛い」
「ああ、ごめん」
無意識のうちに抱き締めている腕に力を込めすぎたようで、目の前にある遥人の眉間へと微かな皺が刻まれる。
少し苦しげに身じろぎしながら訴えてくる遥人へと……謝罪の言葉を紡ぎながらも、腕の力を緩めることはできなかった。
「ん……」
薄く開いた唇へと……ただ触れるだけのキスを落とせば、玲の行為に応えるように遥人は首を傾ける。
少しの仮眠を取っているうち、一体なにがあったのか? 玲は思考を巡らせるけれど、納得できる考察も答えも浮かんでは来なかった。
――どうでもいい……か。
逃げてもいいと言ったのに、遥人はここから逃げなかった。
それが、目の前にある現実だ。
ならば、疑ったり彼の真意を探る必要はどこにもない。もともと、遥人の意志など関係ないと玲は思っていた筈だから。
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