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「会えて嬉しいです。俺のことを気にかけてくれて、本当にありがとうございます。ただ、俺の存在は……あまり貴方のためにならないと思うので……だから、俺はこのまま御園に関係ない存在として生きていこうと思います。必要な手続は……」 「待って」  懸命に言葉を紡ぐ遥人を片手を上げて制し、不思議なものでも見るみたいな視線をこちらへと向けてくるから、急に鼓動が速度を速める。  唯人が自分を救うために動いてくれていたのは知っていた。彼が、弟である自分を疎んでいるわけじゃないとも聞いている。  それは遥人にとってすごく嬉しいことだけれど、だからこそ、自分の存在が彼の足を引っ張ることは、遥人にとって本意ではなかった。 「遥人はもう大人だから、自分の好きなように生きればいい。御園の名前を捨てたとしても、俺と遥人が兄弟であることに変わりはない」  淀みのない唯人の口調に遥人はコクリと唾を飲む。  祖父が隠居したと聞いた時、遥人はひどく驚いた。あれだけ遥人を恐れさせた老人を、唯人が失脚させたのだと真鍋は説明してくれたが、にわかには信じられずにいた。  けれど、唯人に直接会ってみて、不安に思っていたこと全てが杞憂であると理解した。彼の穏やかな笑みと語り口調から、絶対的な自信のようなものを感じとったのだ。

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