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「どうだった?」
「すごく緊張したけど……会えて良かったと思う」
「そう」
電車で移動している間に交わした会話はその程度。
ここ三ヶ月で玲に会うのは今日で4度目になるのだが、大抵会話はあまり続かず沈黙ばかりが流れてしまう。
けれど、その沈黙も遥人にとって苦痛を感じるものではなかった。
「玲は……なにかあった?」
「んー、夏休みが終わって、大学始まったってくらいかな。あとは別になにもない」
ポツリポツリと会話を交わし目的の駅で電車を降りる。駅構内から外へ出て、川沿いにある遊歩道へと歩を進めれば、9月になってもまだ蒸し暑く、夏の終わりを惜しむかのように蜩 の声が響いていた。
隣にいる玲の歩調はゆっくりで、それが不自由な遥人の脚を気遣ってのことと分かるから、むず痒いような気持ちになる。
会った瞬間に遥人の荷物は玲が持ってくれたのだが、自分が背負うと野暮ったくなるデイパックも、彼が片方の肩に掛ければまるで違ったアイテムに見えた。
「あそこ」
5分ほど歩いたところで少し先にある建物を指で示した玲が立ち止まる。どうやら、遊歩道沿いに建つマンションが今の彼が住んでいる場所らしい。
「こっち」
高級そうなその建物をぼんやりと見上げた遥人だったが、玲の声で我へと帰り背中を追って歩き出す。
エントランスホールを通り、エレベーターに指紋認証がついていることに驚いていると、「入るときだけだから平気だよ」と告げられるが、言っている意味が良くわからなくて遥人は小さく首を傾けた。
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