323 / 338

27

 次の日からは仕事へ通い、以前と同じ日常へと戻ることが出来たけれど、日が経つにつれ同じではなく、どこかいびつなものだと気づく。  あの時遥人が玲へと告げた「好き」という言葉。  それは本当に自分自身の想いなのか? 冷静になって考えようとしてみたけれど、動悸が速くなるばかりで、うまく考えがまとまらなかった。  春日がどういう意図で自分に連絡先を渡したのかも分からなかったが、教えてくれたということは、連絡をしてもいいのだという結論へ辿り着いた時、遥人は少し自身の目前が開けたような気持ちになった。 「触っていい?」  返す言葉を探す遥人へと上目づかいで聞いてくる彼に、否と答えることができない。  頷けば、玲の手のひらが労るように、そっと遥人の左脚へと触れてきた。 「痛む?」 「季節の変わり目とか……気圧の変化が大きい時とかには痛くなるけど、今は大丈夫。あと、玲に連絡したのは……自分の気持ちを確かめたかったから」 「そう。それで分かった?」  履いているカーゴパンツの布地を優しく撫でる手のひらから、性的な意図は感じない。  以前は全く成り立たなかった会話が続いていることで、緊張していた遥人の心がほんの僅かだが和らいだ。  ここ数ヶ月、遥人はずっと玲のことを考えていた。     最初に電話をかけた時には、指も声も震えっぱなしだったから、どんな話をしたのかすらあまり良くは覚えていない。  だけど、玲の声音もいつもとは違い、微かに上擦り掠れて聞こえる気がしたから、彼も同じ人間なのかもしれないなどと思ったことは覚えている。  玲がどれだけ遥人に酷い仕打ちをしたか。  それは完全に犯罪行為で、第三者の立場から見たら決して許されるものではない。

ともだちにシェアしよう!