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「遥人のことになると、どうしても自分が抑えられなくなる。だから、逃がさないといけないと思った。けど、遥人が……あんなこと言うから……」
『あんなこと』が6月のあの日、遥人が玲に好きと告げたことを指しているのは理解できた。
その上で、遥人に逃げ道と考える時間を与えるために、あの時は解放したのだろう。
――玲は変わった……のかもしれない。
いつも……遥人の気持ちなどお構いなしに振り回してきた癖に、今になってこんな態度をとるのはきっと、玲の心の有りようが変化したせいなのかもしれない。
「玲」
自分から彼に触れたことなどこれまで何回あっただろうか? そんなことを考えながら、遥人は玲の髪の毛へと触れてみた。
驚いたようにこちらを見上げる玲の姿を瞳に映し、遥人はゆっくり体を前へと傾ける。
そして、額にキスを落とした瞬間、遥人の心は言いようのない感情によって満たされた。
***
それは奇妙な瞬間だった。
額へとキスをされただけで、体中が心臓なのではないかと思うほど脈をうち、体がうまく動かせない。
「遥人が好きだ」
頬を真っ赤に染める遥人を見つめ、言葉を紡ぐ。微笑んでいるつもりだが、上手にできているだろうか?
「喉、乾いてるよな。今……なにか持ってくるから」
こんな気持ちは初めてで、思考がうまく機能しない。
だから、遥人の頬をひと撫でして、飲み物を取りに行こうとした。
ここでいったん落ち着かなければ、以前と同じ事になりそうで怖かったのだ。
遥人が玲のマンションへ来ると言った時、本人の意思で来るのだから、そのまま閉じ込めて今度こそ……自分だけの物にすればいいという考えも浮かんできた。
けれど、それでは決して手に入らないということも、今の玲には分かっていて――。
「玲」
立とうとした玲の手首を遥人が掴み、再び名前を呼んでくる。
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