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「なに?」
「飲み物、要らないから……抱きしめてもいいかな」
思いもよらないことを言われて、玲は思わず息を飲むが、次の瞬間には遥人の体を強い力で抱きしめていた。
「ん……ちがう、俺が、玲を……」
結果、ソファーへと押し倒す格好になったため、遥人が胸の辺りを押しながら、玲へと苦情を告げてくる。
「分かってる。でもちょっとだけ」
肩のあたりに顔を埋めて玲が囁くと、遥人の体から力が抜けてクスリと笑う声がした。
しばしの沈黙が過ぎたころ、今度は遥人の腕が動いて玲の背中へと回される。
どれくらいそうしていただろう? そのうちに、「もう、怖くないから」という遥人の声が聞こえてきて、なんともいえない感情の波に襲われた玲はそれを堪えて頷いた。
それから、遥人の隣へと座り直し、日が暮れるまでの数時間……玲は遥人と会話をした。
本当は、そのまま彼を抱いてしまいたい衝動に強く駆られたけれど、そうしなかった自分は少しでも成長できているのだろうか?
――きっと、遥人が俺を見てるからだ。
ここ数ヶ月、遥人と一緒に過ごした時間、それほど話は弾まなかったが、心中はとても穏やかだった。
会話の内容は玲の大学や遥人の仕事、あとは、日常生活の話などが多かったが、饒舌とは言えない彼が、懸命に会話を繋ごうとする姿を見て、自分に興味を抱いてくれたことが純粋に嬉しかったのだ。
「ひとつ、聞いてもいい?」
「いいよ」
「大雅君は……元気なのかな」
その名を口にする事に、よほどの勇気が要たのだろう。遥人の声は僅かに震え、こちらを見上げる瞳には……不安げな色が浮かんでいた。
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