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「……女放ったらかして大丈夫だったか?」 「え?」 「いや。余計なことだったな」 まさか見られてたか。 サッと背中に寒気が走る。 「あの丹羽先生……っ」 「別に誰にも言わねぇよ」 「え?」 「大人だしな。自己責任だ」 俺より高身長で。しかも手を引かれるように歩いているもんで、表情は分からない。恐らくなんの表情も浮かんでないのではないか。 でもその声には俺を窘めたり詰ったり呆れたり、そんな色は微塵も感じなかった。 ただ穏やかで低い声に、俺は俯いて歩く。 ……自己責任、か。じゃあ今の俺の状態も自業自得ってことだな。 はは、まさか生徒に脅されてあんな事になるなんて。 「てめぇ。なんて顔してんだ」 「え?」 「……いや、なんでもねぇよ。ほら、トイレ着いたぜ」 「あー……」 やっぱり冗談じゃなくて本気で言ったのか。 俺は大人しくトイレに入った。 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪ 「あの、なんか……ありがとうございます」 自分でも何にお礼言ったのかよく分からない。 でも彼の顔を見た瞬間、吐き気も悪寒もチラつく映像も消えた。 低く落ち着く声色も、俺の気持ちを落ち着けてくれたし。 それに対して丹羽先生はやっぱり『おぅ』とだけ。 「……」 「……」 沈黙数秒。 気まずい……多分俺だけ。じっと俺の顔を見つめる彼の視線が痛い。 なんだ、なんなんだ!? やっぱりこの人何考えてるか分からない……! 「あ。茶久先生」 今度は放課後の廊下で男二人見つめ合う状態に終止符を打ってくれたのは、生徒指導部の田中先生だった。 「先生のクラスの橘についてなんですけどね」 「あ。はぁ」 いつの間にか居なくなった丹羽先生に気を留める暇もなく、俺は田中先生のマシンガンの如く言葉に耳を傾けることになる。

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