2 / 10

第2話

 やった……。  ついにあいつをこの手でっ……。  俺は嬉しくなって笑ってしまった。これでやっと自由になれると思った。  目の前に転がる豚のような男は、まだ息があるのかヒクヒクと動いていた。そのまま苦しんで死ねばいいと、俺はあえて放置することにした。  だがこの時になって初めて俺は目の前に立ち尽くす男に気づいた。  髪を後ろに撫でつけ眼鏡をかけた、俺よりも一回り程年上の男だ。高そうなスーツをきっちりと着こなした、エリート然とした良い男だった。目が合うと彼はビクリと肩を震わせた。 「見た……?」  聞くまでもないだろう。俺があいつを刺した瞬間をこの男は見てしまった。  彼は逃げようと走り出したが、すぐに転んでしまう。丁度いい。このまま始末してやる。  俺はうずくまる男を蹴り上げ仰向けにし、ナイフを振り下ろそうと両手に力を込めた。全身の血がたぎる。 「……ぅ」  男が苦しそうに眉根を寄せる。  俺は思わずその顔に見入ってしまった。眉間の皺がとてつもなくセクシーだ。眼鏡が無いその顔は年齢よりも若々しさを感じた。彼を見て下半身に熱が集まってくる。 「……ここで殺すと目立つか」  思ってもいないことを言い訳にして、俺はこの男を連れ帰ることにした。  ――あ、死体の処理忘れてた。

ともだちにシェアしよう!