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第2話
やった……。
ついにあいつをこの手でっ……。
俺は嬉しくなって笑ってしまった。これでやっと自由になれると思った。
目の前に転がる豚のような男は、まだ息があるのかヒクヒクと動いていた。そのまま苦しんで死ねばいいと、俺はあえて放置することにした。
だがこの時になって初めて俺は目の前に立ち尽くす男に気づいた。
髪を後ろに撫でつけ眼鏡をかけた、俺よりも一回り程年上の男だ。高そうなスーツをきっちりと着こなした、エリート然とした良い男だった。目が合うと彼はビクリと肩を震わせた。
「見た……?」
聞くまでもないだろう。俺があいつを刺した瞬間をこの男は見てしまった。
彼は逃げようと走り出したが、すぐに転んでしまう。丁度いい。このまま始末してやる。
俺はうずくまる男を蹴り上げ仰向けにし、ナイフを振り下ろそうと両手に力を込めた。全身の血がたぎる。
「……ぅ」
男が苦しそうに眉根を寄せる。
俺は思わずその顔に見入ってしまった。眉間の皺がとてつもなくセクシーだ。眼鏡が無いその顔は年齢よりも若々しさを感じた。彼を見て下半身に熱が集まってくる。
「……ここで殺すと目立つか」
思ってもいないことを言い訳にして、俺はこの男を連れ帰ることにした。
――あ、死体の処理忘れてた。
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