3 / 10

第3話

 私はいつの間にか意識を失っていたようだ。  気がつくと見知らぬ一室にいた。椅子に座らされ、ネクタイで後ろ手に縛られている。眼鏡が無い為に視界がぼやける。酔いは覚めていたが嫌な頭痛がして、私は顔を歪めた。  しばらくしてあの男が入ってきた。手には水のペットボトルを持っている。 「飲みます?」  明るい場所で初めて男の姿を見た。真面目そうな外見をした若い男だ。キリッとした精悍な顔立ちをしている。  だがこの男は、私の目の前で人を刺した。油断のならない男だ。私はもっと彼を見ようと目を細める。その様子に彼が気づいて、懐から私の眼鏡を取り出した。 「かけない方が俺は好きですが、やっぱり見えないのは不便ですか」  そう言いながらも、彼は眼鏡をかけ直してくれた。 「私を殺さないのか」  私は一番気になったことを彼に尋ねた。  すると彼は口元を器用に吊り上げ、答える。開けた視界にうつる彼の顔は、その端正さを台無しにする程に歪んで見えた。 「だって勿体ないですから」 「……何?」 「あなたみたいな良い男を、その場で殺すのが惜しかったんですよ」

ともだちにシェアしよう!