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第3話
私はいつの間にか意識を失っていたようだ。
気がつくと見知らぬ一室にいた。椅子に座らされ、ネクタイで後ろ手に縛られている。眼鏡が無い為に視界がぼやける。酔いは覚めていたが嫌な頭痛がして、私は顔を歪めた。
しばらくしてあの男が入ってきた。手には水のペットボトルを持っている。
「飲みます?」
明るい場所で初めて男の姿を見た。真面目そうな外見をした若い男だ。キリッとした精悍な顔立ちをしている。
だがこの男は、私の目の前で人を刺した。油断のならない男だ。私はもっと彼を見ようと目を細める。その様子に彼が気づいて、懐から私の眼鏡を取り出した。
「かけない方が俺は好きですが、やっぱり見えないのは不便ですか」
そう言いながらも、彼は眼鏡をかけ直してくれた。
「私を殺さないのか」
私は一番気になったことを彼に尋ねた。
すると彼は口元を器用に吊り上げ、答える。開けた視界にうつる彼の顔は、その端正さを台無しにする程に歪んで見えた。
「だって勿体ないですから」
「……何?」
「あなたみたいな良い男を、その場で殺すのが惜しかったんですよ」
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