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第4話

 そう言うと彼は、私のシャツのボタンを外しながら耳元で囁いた。 「死ぬ前に楽しませてあげますよ、外村さん」  彼は私のシャツを開き、現れた胸に頬をすり寄せてきた。楽しませるというのは、やはりそちらの意味なのだろうか。 「お前はゲイなのか?」 「そうですよ。俺あなたのことすっげー好みです。あ、俺は津川です。俺、年上の人から名字で呼ばれるの好きなんですよ! だから――」 「落ち着きがないな。子供か」  ベラベラと喋り続ける男に、私は正直うんざりした。こんな男に生殺与奪の権を握られているのだと思うと、心底嫌な気分になった。 「ねぇ外村さん。俺の事呼んでくださいよ、津川って。ね?」 「少し黙ったらどうだ」 「……うるさいですよ。そんなに殺されたいですか」  うるさいのはお前だと言いたかったが、男の纏う空気が変わって挑発するような事は控えるべきだと思った。 「俺が何であの豚を殺したか分かります? あんなヤツ死んで当然なんですよ。そう思うでしょ、外村さん」  さっきから私の名を呼ぶ声が不快だ。おおかた免許証か何かを見たのだろう。  しかしこんな男に刺された相手が少し不憫にも感じた。 「津川」 「何ですか外村さん!」  男――津川は目をキラキラ輝かせて私の目を見た。

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