5 / 10
第5話
「お前が刺した相手はどんなヤツだったんだ?」
「あれは最低な上司でしたよ」
あなたと違ってね、と歪な笑みを浮かべ津川は笑った。
津川は私の前に椅子を持ってきて、向かい合うようにして座った。
「あれは仕事のできない無能人間でしたよ。そのくせ俺ら若いヤツらには、ちょっとしたミスですぐに怒鳴りつけるんです。俺がやらなくても、誰かがやっていたと思いますよ」
津川はその目に怒りを宿し、続けた。
「俺は皆の為に犠牲になったんです」
彼の主張に、私は見ず知らずの男に同情する。
「それだけか」
「は?」
津川が私を見る。どうせ殺されるのならと思い、私はさらに続けた。
「たったそれだけの理由で部下に刺されるとは、その上司が哀れだと思っただけだ」
「あなたはあいつを知らないからそんなこと言えるんだ」
津川が立ち上がり、私との距離を詰める。
「外村さんみたいな人が上司だったらどれだけ良かったか。あなたの部下がうらやましい」
「私にはお前みたいな部下は必要ない」
「!」
「会社は組織だ。自分のエゴだけで突っ走るような輩は、私には必要ない」
津川はうなだれていた。その肩が微かに震えている。
やがて顔を上げたその表情は、嫌な感じのする例の歪んだ笑みだった。
「やっぱり俺、あなたみたいな人大好きです。外村さんのお説教なら何時間でも聞いていられます」
ともだちにシェアしよう!