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第5話

「お前が刺した相手はどんなヤツだったんだ?」 「あれは最低な上司でしたよ」  あなたと違ってね、と歪な笑みを浮かべ津川は笑った。  津川は私の前に椅子を持ってきて、向かい合うようにして座った。 「あれは仕事のできない無能人間でしたよ。そのくせ俺ら若いヤツらには、ちょっとしたミスですぐに怒鳴りつけるんです。俺がやらなくても、誰かがやっていたと思いますよ」  津川はその目に怒りを宿し、続けた。 「俺は皆の為に犠牲になったんです」  彼の主張に、私は見ず知らずの男に同情する。 「それだけか」 「は?」   津川が私を見る。どうせ殺されるのならと思い、私はさらに続けた。 「たったそれだけの理由で部下に刺されるとは、その上司が哀れだと思っただけだ」 「あなたはあいつを知らないからそんなこと言えるんだ」   津川が立ち上がり、私との距離を詰める。 「外村さんみたいな人が上司だったらどれだけ良かったか。あなたの部下がうらやましい」 「私にはお前みたいな部下は必要ない」 「!」 「会社は組織だ。自分のエゴだけで突っ走るような輩は、私には必要ない」   津川はうなだれていた。その肩が微かに震えている。  やがて顔を上げたその表情は、嫌な感じのする例の歪んだ笑みだった。 「やっぱり俺、あなたみたいな人大好きです。外村さんのお説教なら何時間でも聞いていられます」

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