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第4話

 俺は人に言えない悩みを抱えている。  患者の血を採血する瞬間。俺はその血を無性に舐めたくなる。  だが本当に欲するのは、自分の血だ。俺は自分自身の血に飢えている。  この悩みは幼い頃からのものだ。  当時活発でそこら中に怪我をしていた俺は、母親に「血が出たら舐めて治せ」と教えられていた。そのときは特に何とも思わなかったが、怪我をするたびに血を舐め続け、気づけば良い年の大人になっていた。  怪我をする回数も減り、血を舐める機会は減っていたものの、俺は次第に物足りなくなっていた。どうしようもなくムシャクシャしたときに、自分の指先を切り、流れる血を舐めたこともある。  しかし当時付き合っていた彼女に「子供みたい」と咎められて、しばらくその行為を止めた。だが彼女が料理中に指を切り、その先から流れる血を目にしたとき、俺は思わずそれを舐めてしまった。当然彼女に引かれ、そのまま連絡が取れなくなった。  俺の舐めかたが異常だったからだろう。  そしてあることに気づいた。彼女の血に何も感じなかったのだ。俺が欲するのは、誰の物でもない。俺自身の血だったのだ。  このとき俺は、自分がとんだバケモノだと理解した。

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