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第5話

 今日もすべての診察が終わった。  帰り支度をし、同僚に声をかけて病院を出る。今日は昨日と違って良い天気だった。空には綺麗な星が瞬いている。  ある路地を通り、そこが昨晩セルジュを見つけた場所だと気づく。そう言えば、あの男はどうしたのだろう。まぁ、どこにも怪我は無かったし、見かけより元気そうだったから心配は要らないだろうが。  彼の前では見せなかったが、内心俺は上機嫌だった。医師として人を助けることができたからだ。  俺は医師としてのプライドがある。それゆえに自分の衝動を抑えることに必死なのだ。医師は傷を癒やす者。自らを傷つけ、その行為に快感を得ている自分が許せなかったのだ。  医師免許を取った日から一度も、俺は自分の血を舐めてない。  ポストを見ると、そこには今朝セルジュに貸した鍵がメモと一緒に入っていた。それらを取り、家に入る。  やはり男はいなかった。深入りする必要は無いと割り切ってはいたものの、俺は少し淋しくなった。  セルジュと名乗った闇色の男は、忽然と姿を消した。  だがしばらく時が経たない内に、俺はセルジュと思いがけない形で再会することになる。

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