10 / 16
第10話
昼頃からぐずついてきた天気が、さらに悪化したようだ。
夜、俺が病院を出る頃には雨が降っていた。傘を差すほどの雨ではないので、俺は走って家路を急いだ。
家の前には予想外の人物が立っていた。
「セルジュなのか」
「突然すみません、貸してもらった服を返しに来ました」
「あー。わざわざありがとう」
すっかり服のことなんか忘れていた。今日のセルジュは出逢ったときのような、闇色の服を着ていた。
「寄るか? 寒いだろう」
「あ、私は……」
「気にすんな。お前だって雨の中ここに居たら、身体冷えるだろうし」
俺は半ば無理やりセルジュを上がらせ、乾いたタオルを渡す。
「何か飲むか。てか何飲むんだよ、お前」
俺はカマをかけてみた。嫌な質問だということは承知している。彼はソファーに座り、何か考えているようだ。
その間にふたり分のコーヒーを淹れ、テーブルを挟んだ向かいに座る。
俺はセルジュから話し出すのを待っていた。
どれだけの時が過ぎたのだろう。ようやく彼が口を開いた。
「高橋さんは、私の正体に気づきましたよね」
ともだちにシェアしよう!