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第11話
やはりそれからだ。これについては、俺も深く考えていなかったので正直に答える。
「ああ。暗いとは言えど、あの距離感なら気づくさ」
「私が怖くないのですか?」
「そりゃあ目光ってたし多少はビビったけどさ、怖くはないよ」
そう答えると、彼は強張っていた表情をゆるめた。
「俺の話も聞いてくれるか?」
「……私で良ければ」
俺は冷めたコーヒーを飲み干し、今まで誰にも話したことの無い悩みを彼にぶつけることにした。
「俺は自分の血が好きなんだ」
「……え?」
「だが、医師になった日から、俺は一度も自分の血を舐めていない。どうしても血が舐めたくて苛ついたときは、他人が流す血を見て何とか落ち着かせているんだ……常に飢えてるんだよ、俺は」
セルジュは突然の告白に戸惑っているようだ。
「でも、自分の血なら好きなときに飲めるのでは?」
「俺はそれが許せないんだ。傷を治す医師が、自身の快楽を得るために自身を傷つける。最悪じゃねぇか」
「それは……」
「お前はどうだ、セルジュ」
「……」
俺はセルジュの目を見すえ、続ける。
「お前は何に飢えてるんだ?」
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