「それだけはできません！」 　初めてセルジュがキレた。 「私は二度と、愛する人の血を吸わないと決めたのです」 　人形のような顔が苦痛に歪む。かまわず俺は続ける。 「俺を死なせるのが怖いのか？　それとも残されてひとりになるのが怖いのか？」 　セルジュが押し黙る。図星だったようだ。 「大丈夫だ。俺は死なないし、俺自身の欲を満たすための提案だから、そんなに深く考えなくても良いぞ」 「いえっ！　でも……」 「お前は心配性だな」 　その瞬間、俺は握った刃物に力をこめ、自らの腕を切り裂いた。 「高橋さんっ！」 　セルジュが駆け寄る。その男の後頭部を、怪我をしていない手で掴み固定する。 　セルジュと目を合わせながら、俺は溢れ出る血を啜った。その行動に彼が驚く隙もなく、俺は口移しで己の血をセルジュに流しこんだ。舌を絡ませ、まるで恋人同士のような熱い口づけを交わす。 「何で……こんな……」 　セルジュは明らかに動揺していた。 「俺じゃ駄目か」 「……え？」 「お前は俺を通してエドとかいうヤツを見てると言ったが、そんなの虚しいだけじゃないか？」 「……」 「大丈夫、俺は生きてる」 「高橋さん」 「バケモノ同士仲良くやろうや」 　俺は固まったままのセルジュをリビングに残し、腕の手当てをする為に救急箱を取りに行った。 　いつの間にか、雨は上がっていた。