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第2話
人間が人工知能を備えたロボットと暮らすことが当たり前になった世界。俺の家にも家庭用のアンドロイドがやってきた。それがユキだ。
仕事で忙しい両親の代わりに家事をこなすユキは父でもあり、母でもあり、また一人っ子で兄弟のいない俺にとって年の離れた兄でもあった。
いつのまにかユキは一番の友になっていた。ユキがいれば何も寂しくはなかった。
ただひとつ不満があるとすれば、ユキには体温がないのだ。夜眠れなくてユキに一緒に寝るようにと命じたことがある。珍しくユキが渋ったので、その時のことはよく覚えていた。
「いけません、坊ちゃま」
「どうして?」
「私は眠ることが出来ないからです」
淡々とユキは答えた。まるであらかじめ用意されていた答えを述べたように。その態度を不快に思った俺は、ユキの腕を引っ張り、無理矢理ベッドの中に引き込んだ。
あとになって思うが、子供の力で重い鉄の塊を動かせるはずはない。この時ユキは自ら足を進めてくれたのだろう。
「坊ちゃま、この手を放してくださいませんか?」
俺はかぶりを振り、両腕を伸ばしてユキの背中に回した。距離が一層縮まり、互いの身体が触れ合った。胸の鼓動が速くなるのを感じたが、ユキからは何も感じない。彼がアンドロイドだからだ。
「どうしてユキの身体は冷たいの? 風邪ひいたの?」
「お優しい坊ちゃま」
ユキはクスリと笑って、白く長い指で俺の乱れた前髪を整えた。
「私は機械なので、体温というものがないのです」
「寒くないの?」
「何も感じません」
「……寂しくないの?」
「私には坊ちゃまがいますから。あなたのその温かい言葉で、私自身も温かみを感じることが出来るのですよ」
「じゃあ、いつかユキにも春が来るといいね」
「と申しますと?」
「春になったらみんな温かくなるんだ。ユキだってもっともっと温かくなれるよ。だから俺と一緒に春を待とうよ!」
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