4 / 8
第4話
ユキと初めて会った時から十二年が経った。俺は高校三年生になっていた。小柄だった俺の背は成長期にぐんぐんと伸び、今ではユキを追い越すまでになっていた。
だがユキは何も変わらない。あの日と同じ高さで話し、あの日と同じ距離間で俺に接している。今でもユキは家庭用のアンドロイドとして日々家事をこなしている。それも変わらない。
変わったのはユキに対する俺の態度だけだ。
「おかえりなさいませ、和希さま」
俺はその声を無視してずかずかと自室へ籠った。
ユキは何でも俺の言うことを聞いてくれる。「坊ちゃま」呼びが恥ずかしくて何とか呼び方を変えてくれないかと頼んだ時も、少し困ったような顔を見せたが、結局は今の形に治まった。
だがユキが優しいのは何も俺に限ったことじゃない。両親はもちろん、来客や、買い出しに立ち寄る近所のスーパーの店員にさえも、ユキは優しい笑みで、優しい言葉をかける。 そうするように製作段階でプログラミングされているからだ。
思春期の俺はユキのその態度が癪に障って、極力口を利かないようにして過ごした。ユキが誰かに向けるあの笑顔が、どうして俺だけに向いてくれないのかと本気で考えた。
俺の中でユキの存在がどんどん大きくなっていった。もうユキなしでは生きられないと本気で考えもした。
初恋だった。
これが恋などという甘い言葉でくくっていいものなのかはわからないが、その時俺は、初めてユキを恋愛対象として見ていた。
相手はアンドロイドであり、その上性別は男である。機械に性別があるものかどうかはわからないが、長身であることと、声が低いこととを総合して俺は彼を男と認識していた。
大学進学のために勉強するからと部屋に閉じこもり気味の俺にも、ユキは必ず声をかけてくれた。だが俺は彼に俺の想いを悟られるのが怖くて、わざと突き放した態度を取った。
ともだちにシェアしよう!