7 / 8

第7話

「……残念ですが、私はあなたと一緒には生きられない」 「どうして?」 「あなたが人間で、私がアンドロイドだからです。人間であるあなたは年が経つごとに身体は成長し、やがて衰えていくでしょう。対して、私はアンドロイドです。生まれたままの姿で時を過ごし、何も変化することのないまま、いつか動かなくなる。寿命があるという点では人間もアンドロイドも同じでしょうが、その長さの違いは一目瞭然です。だから和希さま。たとえあなたの命令でも、私はあなたと同じ時を過ごすことが出来ないのです」 「だから、俺がアンドロイドになれば何も問題はないじゃないか!」 「それはなりません」 「ユキ!」 「私のこの機械の身体はあなた様にとって不都合でしかありません。食事も睡眠も必要としない完璧な身体。聞こえはいいでしょうが、はたして我々アンドロイドがそれで幸せだと思いますか?」 「それは」 「私はあなたがた人間が羨ましいのです。覚えておいでですか? あなたが私に温かさというものを教えてくれた日の事です。ご存知の通り私の身体は冷たいです。冷たいというものも正直よくわかりません。数値で表される値と直接感じる温度とでは、おそらく違うでしょうからね」  過去を懐かしんでいるのか、怜悧なユキの眼元がほんの少し柔らかくなった。 「あなたの心が温かかった。私はその時今まで感じたことのない何かを感じたのです。それが温かいというものだと理解したのはその年の春、ご家族で花見に出かけられた時です。柔らかい薄桃色の桜の花がひらひらと舞っていて、その下には落ちてきた花びらを両手で受け止めようと奮闘する和希さまがいて、その光景を微笑ましく見守る旦那さまと奥さまがいて……私の目に映る全てのものが、とても綺麗で、幸せそうで。私は漠然と、ああ、これが温かいというものなのだと実感しました」  ユキの話を聞いている間、俺はその日の情景を思い出していた。毎年桜の時期に家族そろって花見に行く。それは俺にとってもかけがえのない思い出だった。

ともだちにシェアしよう!