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よもつへぐい

ハロウィンタウンには色んな人がいた。僕が本で見たことがあるような妖怪やお化けの類のものもあれば、ジャックさんのような普通の人もいた。見たことのないものだらけの世界は楽しかったけれど、もう何時間ここで遊んでいるだろうか。 「シキ、今何時かな?もうだいぶここにいる気がするから…そろそろ帰らないと!」 「どうして?」 「家族が待ってるもん。」 「僕といた方が楽しくないの?」 僕の手を引っ張って次へ次へと案内していたシキは足を止めて振り返り、僕の手を痛いくらい強く握った。 「シキっ、痛いよ…っ。」 「答えてよ。」 「シキと遊ぶのは楽しいけど…、お家に帰らないとダメだよ!ごめんっ」 僕は手を振りほどいて来た道を戻ったが、入って来たはずの木の門をくぐっても何も変わらなかった。 「あれっ、なんで…!」 「もう遅いよ。」 後ろから追いかけて来たシキは明らかに不機嫌な顔で僕にそう言った。 「もうリョウは元の世界に自由に戻ることはできない。だってジャックの飴玉舐めただろ?」 「どういう…こと?」 「別世界の食べ物は食べたらその世界から出られなくなるんだ。よもつへぐいっていうんだけどさ。だから君はもうこの世界の住人だよ。」 「そんなっ…酷いよ!…僕、初めて、友達ができて、嬉しかったのにっ…こんなの…」 僕はもう家族の元には帰れないんだと思うと涙が止まらなかった。産みの親ではなくても、僕にとっては大切な家族だったんだ。離れ離れなんて考えられない。 「泣かないでよ、リョウ。君のこと幸せにしてあげられるのは僕だけなんだよ?」 「こんな幸せなんかいらないッ!」 僕のことを抱き締めるシキの肩を何度も叩いて泣いたけどシキは僕を強く抱きしめたまま離さなかった。それから少しして首の後ろに強い衝撃を受けて意識が途切れた。 *** 目がさめると、見覚えのない一面白の天井が視界に広がっていた。夢でもなんでもなくて、やっぱり僕は帰れないんだと思ってまた少し泣いた。 「大丈夫かい…?」 隣から声がして見上げると2mくらいありそうな背の高い人が僕を見下ろしていた。驚いてベッドから落ちそうになった。 「ごごごめん!!驚かせちゃったよね。」 彼は床に膝をついて僕に目線を合わせてくれた。よくよく見てみると彼の顔は右目の周りが継ぎ接ぎで別の色の皮膚になっていて、左右の目の色が違った。こんな人を見るのは初めてだったけれど整った顔だからか綺麗だと思った。 「俺こんな顔だからよく驚かれちゃうんだ、ははは。」 「そんな事ない!綺麗な顔だとおもう…!」 「本当??そう言ったら博士喜ぶだろうなぁ。そうだ、自己紹介しそびれてたよね。俺アダムっていいます。君のこと博士に見てやってくれって言われてて。」 「アダム…、よろしくね。博士って…シキのこと?」 「違う違う!博士はフランケンシュタイン博士のことだよ。再生医療の研究をしてるお方なんだ。」 「フランケンシュタイン…。」 どこかで聞いたことある名前だとおもった。 「博士は有名な人だから、君も知ってるんじゃないかな。きっとそろそろ診療の時間が終わるから博士がこっちに来るよ。少し変わってるかもしれないけど、とってもいい人だから、怖がらないで欲しいな。」 アダムさんはそう言って笑った。アダムさんにとって博士が大切な人だということは明白だ。 「聞きたいことがあるんだけど…ここって、ハロウィンタウン?」 「そうだよ?」 「そっか…。シキはどこ?」 「シキくんは…、事務処理中、かな。」 「僕のこと閉じ込めたくせに無責任なやつ…。」 僕はシキ以外この世界の人に面識なんてないのに、シキに頼らざるをえない状況が憎い。 「怒ってるだろうけど、シキくんも必死だったんだよ。君を守るためにね。」 納得などしたくなくて、アダムさんにそっぽを向いた。

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