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第16話 再会

 ゆったりと入浴を済ませ、身を浄めた後、バスローブ姿で部屋に戻ると、侍女達が着替えを手に待ち受けていた。  あまり若い女性はいない。いずれも母親ほどの年頃の落ち着いた風情の侍女を配したのは、徒に気を使わせない配慮---とも思えた。 「皇子さま、まもなく殿下がお見えになります。お召し替えを---」  物腰も洗練された侍女頭らしき婦人が差し出した衣を広げて、スゥエンは一瞬凍りついた。  襟に繊細なレースをあしらった、絹で出来た薄物のシャツは胸元が大きく開き、肌が透けて見えそうだ。ボトムのパンツも脚の形そのものを露出する、ピッタリとしたデザインで、七分丈ほどの長さしかない。 「如何なさいましたか?」  固まりきっているスゥエンに侍女が不思議そうに声をかけた。 「いや---。これは公式の場で着るようなものでは----。」  ある種、扇情的な衣装に羞じらい、顔を赤らめながら抗議するスゥエンに侍女頭が、ころころと笑った。 「今宵の晩餐は、殿下の私的な会食と伺っております。皇子さまには、気の置けないご友人のつもりでおいでいただきたい、とのお言葉にございます。さ、こちらのチェニックをお召しになって---。」  深緑色のベルベットの丈の長い、マントのようなチェニックを羽織ると、どうにか肌や身体の線は隠れる。スゥエンは、ほっ、と息をつき、侍女達の作業を無表情で待っていたヴェーチェに問い糺した。 「私は、同盟の交渉に来たのだ。単なるご機嫌伺いに来たのではないのだが---」 「存じております。」  ヴェーチェは、勿体をつけるように、口髭を捻りながら、応えた。 「されば尚のこと、殿下のご意向に添うようにお振る舞いなされたほうが、宜しいかと---。」  尚更に不機嫌そうな顔をするスゥエンに釘をさすように、僅かに歪めた唇に笑みを浮かべてヴェーチェは、付け加えた。 「ナヴィア国の皆様のためにも---殿下のお心ひとつに、成否がかかっておりますのですから---。」  スゥエンは、ぐ---と言葉を呑んで唇を噛み締めた。    スゥエンの釈然としない気分に反して、離宮に現れたオルテガは、すこぶる上機嫌だった。 「これはスゥエン皇子、ずいぶんと久しぶりだな。元気にしておったか?---おぅ、背も伸びて。もぅ一人前の大人だな。」  恭しく頭を下げて、挨拶を口にしようとしたところを、ぐいと抱き寄せられて、親しげに力強い手で背中を叩かれ、スゥエンは思わず咳き込んだ。 「殿下には大変ご無沙汰をいたしまして---。 この度は切にお願い申し上げたき儀がございまして---御即位間近のご多忙の折りを承知でまかり越しました。」  スゥエンが改めて、極めて丁重に口上を述べると、オルテガはニヤリと口元を緩め、そして食堂へとその背を押して促した。 「書状は受け取っている。話は後だ。食事にしよう、スゥエン。海老は食べられるか?活きの良いのをご馳走しよう。」  異様なほどに上機嫌な素振りに困惑しながらも、スゥエンは、前を行くオルテガの両の眼に仄昏い獣のごとき光が宿っていることに気づいてはいなかった。

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