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第24話 懇願*

ー手紙を書きたいー  スゥエンは、オルテガの手枕の中で小さく呟いた。あれから数日の間、オルテガはスゥエンの体調が回復するまでは、添い寝には来たが、あの行為を求めてはこなかった。  抑制剤の服用は許されていなかったが、スゥエンの発情は比較的穏やかで、オルテガに肩を抱かれ、口づけられ、仄かに身体が熱くなることはあったが、それ以上に初めての行為の後に三日ほど発熱して、著しく体力を消耗していたこともあったかもしれない。  熱が下がると、散歩とヴェーチェの持ってきた数冊の本を捲る程度の行動は許されたが、スゥエンの一番の関心事---離宮の外の状況は皆目わからなかった。  ヴェーチェも侍女達も言い含められているのだろう、余計な言葉は一切口にせず、『情報』は、仕事の息抜きに、あるいは夜毎に訪れてくるオルテガから引き出すしかなかった。それも、ごく手短に伝えられるのみだ。 その上、オルテガに、さも当然のように、 ーナヴィア国の護衛の兵隊は帰国させた。お前の身辺の警護はバスティアの近衛兵に任せるー と断言されたことにはかなりの衝撃を受けた。  長い滞在になる、もしくは戻れないかもしれない、という恐怖はスゥエンの胸を深く痛めた。が、それ以上にナヴィア国内の情勢が、気にかかっていた。 ーもし、不在の間に何かあったら---ー  非力な自分に何が出来るわけではないが、王家の一員として、気にならないわけはない。しかも、若輩とはいえ、一軍を率いて敵と対峙した経験もある。特に国境付近の不安定さが心配だった。  しばらくの後、スゥエンの体調の回復を確認したオルテガが、久方ぶりに夜着の裡に手を伸ばしてきた折り、スゥエンは意を決してオルテガに願い出た。 「国許に、父や傅役の者達に手紙を書きたいのです。」  真剣な眼差しで見上げるスゥエンを冷やかに見下ろす双眸に、必死に訴えかけた。けれど、オルテガの表情はぴくりとも動かなかった。 「国のことなら、心配はいらん。お前が素直にワシに従えば、良いようにしてやる。」  オルテガは、聞こえぬ---というように、無造作にスゥエンの胸の突起を摘まみあげ、弾くように弄ぶ。 ーひっ---!ひぁぁっ!---い、いゃ---ー  細い喉がせり上がり、小さな悲鳴が喉をつく。 「信じ---られま---せぬ。---その前に、他国に----攻め入ら---れたら------うくっ!」  オルテガは、やっとのことで言葉を手繰り寄せるスゥエンを、嘲るように見下ろして、ふん------と鼻で笑った。  つん---と天を向いたそれにカリリ---と歯をたて、もう片方の突起を親指の腹で擦りあげる。 「案ずるな。ラルダには圧力をかけてある。ナヴィアは我らにとっても『母の国』だ。滅ぼさせはせぬ。」 「母の国---?」  オルテガに薄紅の突起を吸い上げられ、身を捩る。だが、ふと意識に触れたその事が、妙に引っ掛かった。 「今に、わかる。」  スゥエンの夜着の袷いに、するりと大ぶりな手が忍び込み、太股を撫で上げた。スゥエンは静かに眼を伏せた。 「そなたが今せねばならぬことは、ワシに粛々と従うことだ。」 ー誰が、そのような---。ー  胸中で激しく歯噛みしながら、だが、身体の奥底からじわりじわりと浮き上がってくる熱に耐え兼ね、オルテガの胸元に額を擦り付ける。 「無事な事だけは、伝えたいのです---。」  押さえきれない吐息が、唇から零れ落ちる。 ひたひたと染み入ってくる快感の波に、半ば泣きじゃくるように、啜りあげながら、訴える。  しなやかな白い腕をオルテガの背中にしがみつかせ、項を反り返らせて、だが、その瞳は真摯にオルテガを見つめる。 「良かろう。」  ふん、と今一度鼻を鳴らして、オルテガはスゥエンの腰を引き寄せた。オルテガの手に両の脚を掬い上げられ、熱い律動が押し付けられる。------スゥエンは固く眼を閉じ、ひたすらに薪のはぜる音を、聞いていた。

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