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「声出してよ」
シャツのボタンを外し、顔を覗かせた突起に舌を這わせた。
そこを弄るのは女にされるようだからイヤだと、以前はいわれた。
――上等だ。
女にしてやるよ――躍起になって柔らかな塊を転がしているうち、嫌悪感以外の感覚が勝ってきたのか、史晴がもじもじと腰を揺すりだす。
「んっ……」
「きもちいい?」
史晴は泣きそうな顔で首を振る。
「そ。じゃあこれは?」
もう片方の突起は寒さからか、キリキリと尖ってその存在を主張している。先端のわずかに凹んだ頂点へ触れるか触れないかの愛撫を与えると、史晴の身体が目に見えて反応する。
「あ……っ」
どうやらそこはまだ強い刺激を快感とは受け止められないらしかった。
くすぐったいくらいの感触が史晴にはイイのだろう、爪の先が突起の先端をかすめるたび、びくびくと腰を揺らす。
「ぁ、はぁっ……ああっ!」
「かわいい、兄貴……誰かに見せてやりたい。弟の手でこんなに感じて。マジで変態じゃん」
「や、だ……いやだっ」
「ねえ、父さんも母さんも見てるかな。俺、今度から家族写真とかまともに見れないかもなあ。だって兄貴は父さんソックリだし……ほら、赤ん坊の俺を父さんが抱いてる写真あるだろ。あのときの父さん、いまの兄貴に似てない? 歳もちょうどおなじくらいだしさ。男にするのもったいないくらい美人だったから、もし生きてたら俺が好きになってたのは父さんかもしれないね。そしたら……兄貴、俺たちどうなってたと思う?」
なんたって俺は、実の兄貴に惚れるようなヤツだからさあ――。
ねえ、と訊ねると同時に、硬く育ってきたソコを優しく転がした。
「だめ、って! アキっ……!」
「はは、聞いてない? って、そりゃそうか。俺が誰を好きだろうと兄貴には関係ないんだもんね」
嗤いながら、膨らんでいまにも爆ぜそうな史晴の乳首をこよりを縒るように捏ねる。
「もうイク? 弟に乳首弄られてイくの?」
「イクッ……だめ、イクっ」
もうソコだけで極めてしまいそうだと史晴は泣いた。未知の快感に怯え、必死に千彰へしがみつく。
「いいよ。でもイクときは、ちゃんと俺の名前呼んでね?」
熱い吐息に囁かれて、こくこくと史晴が頷く。
濡れた唇を薄く開いたまま震わせて、はあっ、と深く息を吐いた。
「イク、ち、ちあき……! 千彰っ……!」
ビクッ、と史晴が腰を震わせる。不規則なその動きに合わせて千彰が指を蠢かすと、史晴の平らな腹部にとろりと白い蜜が弾けた。
「ぁ……」
濡れた自分の腹を見て史晴は信じられないという顔をした。快楽に夢中で、自分がどれだけの痴態を演じたのかわからなかったのだろう。
慌ててシャツの裾でそこを拭き、なかったことにしようとするのを、千彰は手を取って止めた。
「なにしてんの」
「……ちがう。コレは」
「ちがわない。いい加減あきらめたら? 俺たち、もう二度と普通の兄弟には戻れないんだよ」
そうしたのは、アンタと俺なんだよ。
「教えてやろうか。祐司の……本当のこと」
祐司の名を出すと、史晴の目にはっきりと怯えの色が走る。
それが気に入らなくて――まだほんの少し残っていた千彰の理性が、音を立てて崩れていく。
「全部ウソだよ。盗撮ってのはウソ。アイツは、本当は全部知ってる。兄貴があの映像でナニしてたのか」
「……うそ」
呟く史晴の顔から血の気が引いた。
「俺が金やって撮らせてたんだよ、アイツに。あ、ユリちゃんはなぁんにも知らないから。どっからか湧いてきた臨時収入で、ふたりで美味しいもの食べられてラッキーくらいにしか思ってないよ、きっと。でもさあ、何度か会っただけの男の兄貴にオカズにされて……しかも自分の存在はまるっと無視なんて、女としてのプライドもクソもないよね」
「なんで……そんな」
「兄貴が好きだからにきまってるじゃん」
「だからって――」
「兄貴に怒る権利あると思ってんの? 残念だったね。祐司に秘密知られて恥ずかしい? でも大丈夫だよ、アイツは兄貴が自分のこと好きだって思ってる、ただの幸せモンだから」
「もう、やめてくれ……」
「いいなあ祐司は。ウソでも、勘違いでも、兄貴に好きになってもらえてさ」
「アキ」
頼むから、と泣きじゃくる史晴を、千彰は心の底から可愛いと思った。
なぜいままで気づかなかったんだろう。
兄は綺麗で、残酷で、可哀想な生き物だ。
そして俺は。
「ねえ兄貴。俺ってクズだろ?」
史晴よりも、誰よりも。
「こんなクズに惚れられて――――兄貴ってホント、可哀想」
「あ……ああ……」
逃げようとする細腰を掴まえた。
開いて、暴いて、必死になって打ちつける。
史晴は泣きながら感じていた。
悲鳴のような喘ぎ声を聞きながら、千彰の頭は冷静に転居先を考えている。
この部屋にはもう住めない。明日にはなにかしらの苦情がくるだろう。
ふたりの職場に近いところがいい。叔父や叔母には悪いが、突然の引っ越しはすべて事後報告になりそうだ。
まずは――どうせこの部屋の場所は史晴の後を尾けて知ったのだろうが――コウに見つからないようなところにしなくてはならない。
今回のことではっきりした。あの男は、もう史晴には必要ない。
「ああっ! あ、ん、んっ、ちあ、き!」
「っ……! く、」
極まった史晴がまた絡みついてくる。下腹に感じる心地よさに、思考を根こそぎもっていかれそうだ。
史晴は忘我の淵にいる。初めて男を受け容れる苦しさと、それをはるかに上回る興奮とで泣きながら蜜を噴き上げる。
「好きだ」
――史晴。
心の中で何度もその名を呼ぶ。
この声は絶対に届くことはないけど。
「千彰っ……あ、っ、イッ……」
「好きだ。好きだから。兄貴が。おねがいだから」
おねがいだから。いまだけは、俺の――。
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