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第1話 ③

 コンビニでの買い物をすませて、快は悠利とともにアパートの部屋へ戻ってきた。 「事務所には行かなくていいのか」 「ああ、うち適当だから。一応、夕方くらいに顔出すけどな。それよりほんとに何も買わなくてよかったのか?」 「今はいい」  彼はそういうが、体は細いし、色白なせいもあるかもしれないが顔色もあまり良いようには見えない。  ワンルームの部屋の中には、テーブルとテレビ、それからベッドが置かれているだけで、物が少なく殺風景だった。  テーブルにはこたつ布団がかけられている。 「適当に座ってくれ。お茶くらいは飲むだろ?」  快は台所でやかんに水を入れ、火にかけた。  悠利といえば、こたつに入って座っている。 (……なんか気まずいんだよな)  とりあえず一緒に部屋まで戻ってきたものの、何を話せばいいのか全くわからない。  コンビニにいるときも、帰り道も、ほとんど会話をしなかった。 (とりあえず、テレビでもつけとけばいいか)  沸かしたお湯で二人分のお茶を入れて戻ると、悠利はいつの間にか寝転がっていた。その目はしっかりと閉じられている。 「……寝てる?」  テーブルにマグカップを置いて快もこたつに入ったが、目を覚ます気配はない。 (まじか。まあちょっと助かったけど)  それにしても、だ。  透き通るような肌というのは、こういうのをいうのだろう。  寝転んでいる悠利を見下ろしながら、ついそんなことを思った。現実離れした顔立ちは、まるで美しさを表現するために作られた人形のようだ。  とにかく起こさないように、コンビニの袋からそっとおにぎりを出したときだった。  ピンポーンと思いきり鳴り響いたインターホンの音に、快はぎくっとして悠利を見た。それでも起きそうにない彼に、ひとまずほっとする。  玄関のドアを開けると、そこにいたのは亮次だった。 「あれ? めずらしいな、亮次さんが事務所から出てくるなんて。なんかあったのか?」 「今朝七時くらいに悠利が事務所に来てな。暇そうにしてたから、とりあえずお前について ろって言ったんだが、そのあとどうなったのか気になってな」 「ああ、それでか」 「なんだ、なんかあったのか?」 「いや、起きて外に出たらいきなりあいつが……って、七時?」 「ああ。それがどうした」 「俺、あいつが外に立ってることに気づいたの、十二時過ぎだけど」 「外? お前、なんで中に入れてやらねえんだよ」 「気づかなかったんだって。なあ、もしかしてずっと外にいたわけじゃねえよな」 「あー……どうだろな」  亮次は言葉を濁しながらも、やりかねないといった顔をしている。 「で、あいつはどうした」 「うちにいるよ。寝てるけど」 「寝てる?」  亮次が玄関からリビングをのぞき込んだ。  こたつに入って寝転がっている悠利の頭が少しだけ見える。 「まじか。あいつが人のいるところで寝るとはな」 「めずらしいのか?」 「人のいるところじゃ絶対に寝れねぇって言ってたからな。よっぽど信頼されてんだな、お前」 「会ったばっかなのに信頼って、疲れてるだけだろ」 「そうかもな。ま、せっかくだからそのまま寝かせといてやってくれ。事務所には無理に顔出さなくていいから、ルミエールの仕事だけは頼んだぞ」 「はいはい、わかってるって」  じゃあなと言って玄関のドアを閉めようとした亮次が、付け加えるように言ってくる。 「襲うなよ」 「なんでだよ。俺、一応ボディガードなんだろ」 「まあな。じゃ、よろしくな」  亮次は今度こそドアを閉めた。  人のいるところで眠れないなんて、それほどに不安な毎日を過ごしているということだろうか。  狙われている。  亮次の言葉を思い出して、快はしっかりと玄関の鍵を閉めた。

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