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第2話 ③
「ストーカー、ですか?」
その日の深夜、いつも通りに店を訪れた快と悠利に、実華子が相談を持ちかけてきた。
「まだそこまでじゃないんだけどね。レイナちゃんに付きまとってるお客様がいるみたいなのよ」
「そうなの。もー困っちゃうでしょ。私ってばもてちゃって」
「何言ってんのよもう。そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
ミユウが、レイナの肩をぱしっと叩いた。
レイナに付きまとっている客がいる、と聞いて、快がふと思う。
「そういや最近妙な気配を感じることがあったな」
呟いただけのはずだったのに、レイナの耳にはしっかり届いていたらしい。
「えっ、ほんと? さすが快、探偵事務所の探偵だものね」
「いや俺は探偵ってわけじゃないんだけど」
だが探偵に資格がいるというわけではないし、亮次とともに客の依頼を受けたこともあるので、探偵と言われればそうなのかもしれない。
「快君、一応今日はドアの前まで送っていってあげてくれないかしら。悠利君もよろしくね」
「……わかりました」
実華子に微笑みかけられて、悠利は小さな声で返事をした。ここに来ると彼はいつも以上に静かだ。
「明日の夜には何とかしてもらうつもりだけど」
「亮次さんにですか」
「ええ、もちろん」
普段は何もしない亮次だが、客とのトラブルなどが起こったときの対処は率先して引き受けている。
実華子に頼まれたとおり、レイナだけでなくミユウもマンションの部屋のドアまで送っていった。
彼女たちがいなくなった車内は相変わらずの静けさだったが、いつしかそれに慣れていた。
今となっては気まずいなどとは少しも思わない。
「俺も怪しい男を見かけたことがある」
助手席の悠利が言った。
「え、そうなのか?」
「ああ」
「なんでさっき言わないんだよ」
「口を開くと面倒なことになりかねないからな」
話し始めたら止まらないルミエールの女の子たちが、悠利はどうも苦手らしい。
「俺も、妙な気配を感じたことがあるとは言ったけど、お前のこと狙ってるやつじゃねえかっ
て思ってたんだよ」
「ああ」
「お前が見かけた、その怪しい男ってのはどうなんだ」
「さあ。どうだろうな」
はっきりしないのはお互い様だ。
しかし実華子が相談してきたということは、レイナに付きまとっている客がいることは事実なのだろう。
明日の夜、亮次に対処してもらう予定だと言っていた。つまり明日は亮次も用事で出ている。もし快と悠利が深夜の仕事に遅れたら、代わりにレイナとミユウを送る人がいないということだ。
よほど大丈夫だと思うが、間に合うようにこの町に帰ってこなければ。
タイムリミットは深夜二時だ。
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