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第6話 ①

「大切な人がいなくなってしまうことの悲しみを、私はずっと忘れたままで過ごしていた気がするよ」  病室のベッドで眠るユキムラの顔を見つめながら、誠二郎が呟くように言った。 「君にとって、悠利君は大切な人なんだね」 「はい」  快が迷いなく頷いた。 「だから、もしあなたやユキムラの考えが変わらなくても、悠利のことを死なせるつもりはなかったです」 「ああ、よくわかったよ。私も、彼のことは息子のように思っていたからね。それなのに死を選ばせようとしていたなんてどうかしていたよ」 「それ、本人に伝えたらきっと喜ぶと思いますよ」  誠二郎の望むことは何でも叶えようとしていた彼だから。 「そうだね。じゃあ目が覚めたら伝えるとするかな」  言って、誠二郎が笑う。  その顔は今まで見た中で一番優しい笑顔だった。 「悠利君」  誠二郎が古い鍵を差し出した。 「これが例の鍵だよ。取り壊しの件はもう業者に依頼してしまったけれど……本当にいいんだね」 「……はい。ありがとうございます」 「それじゃあ、私は仕事があるからこれで。朝から呼び出してすまなかったね」  悠利に鍵を渡すと、誠二郎は病室を出て行った。 「だってさ。よかったなユキムラ」  快が言った。  すると寝ていたはずのユキムラが、ベッドからむくりと体を起こした。 「やっぱりね。起きてること気づいてると思ったんだよ」 「怪我はどうなんだ?」 「おかげさまで。すぐにでも退院したいくらいだよ」  口ではそう言っているが、脇腹を刺されてからまだ五日しか経っていない彼の腕には点滴が繋がれている。歩くのも、まだ手すりを使いながらゆっくりでないと難しい状態だ。 「俺のことより自分たちのこと心配しなよ」  朋希が持って行った箱の中身が空であることは、すでに気づいているはずだ。今のところ不審なことは起こっていないが、いつまた狙ってきてもおかしくない。 「わかってるって。じゃあ俺らもそろそろ行くから」 「ああ、ちょっと」  部屋を出ようとした快と悠利を呼び止めて、ユキムラが下りたたまれた紙を投げた。  とっさに受け止めた快が開いてみると、中には携帯電話の番号がかかれていた。 「それ俺の番号。困ったら連絡くれれば気が向いたら助けてあげるよ」 「気が向いたらかよ」 「だって面倒くさいって思うこともあるかもしれないし。ま、悠利が俺のことを信用するのかって問題もあるけどね」  悠利は軽く眉をひそめたが、連絡をするなとも信用できないとも言わなかった。

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