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第9話 性癖*

「はぁっ、ぁぅっ、んっ、雅仁、さまぁっ」 息も絶え絶えに、藍は仰向けに崩れ落ちた。白い肌のあちこちには、花が咲いたように鬱血痕と牙の跡が散らばっている。噛み跡の幾つかは血がにじんでいた。 追いかけるように雅仁がその横に両手をついて覆いかぶさる。 「おいおい、ちょっと敏感すぎやしないか?まだこっちは手も付けてないぞ?」 皮肉の色を浮かべながら、透明な先走りで濡れそぼった藍のそれに、ぐりぐりと膝を押し付けた。 「んぁっ、だ、だめっ、イっ」 途端に藍が腰を痙攣させ、白濁液を溢れさせる。 まだ下生えも生えていない薄紅色のそれが体液にまみれているのは例えようもなく淫靡だった。 雅仁は思わず己の唇に舌を這わせた。 藍を抱き上げると脱げた浴衣を敷物がわりに四つん這いにさせる。 傍に膝をつくと、かりりと白い肩甲骨に牙を立てる。 「んぁっ」 喘いだ藍の口に雅仁は指を押し込んだ。 「んく」 「ようく舐めてな。俺のモノだと思って」 藍がちろちろと指に舌を這わせる。くすぐったさに雅仁は喉をならし、藍の背骨にそって赤い痕を並べた。 指が唾液でびっしょりと濡れた頃、雅仁は藍の口から指を引き抜いた。 「ごくろうさん」 ちゅっと音をたてて額に口づけると、その指で藍の後孔をなぞった。 「は、ぁっ」 期待で藍の息が荒くなる。 一本。難なく飲み込んだ。 二本。少しきついがすぐに解れそうだ。 「藍?随分と柔らかいな?」 「き、のう……ぬし様と……」 「はん。ご奉公って訳か」 雅仁の指が蛇のように中でうごめく。 「なら、生半可な愛撫じゃ物足りなくしてやるからな」 「ぁ、あっ」 ある一点を掠めたとたん、藍がびくりと体を揺らした。 そこをとんとんと刺激すると、ぱたたっと体液が藍から散った。 指を三本に増やして中を荒らすように動き回る。もちろん、かの一点を虐めることも忘れない。 「んっ、あん」 よがり声が上がる度、藍の体に噛み跡がついた。 「ひっ、ぁあっ」 次第にそれは逆転して、血のにじむ噛み跡ができる度に声が上がるようになっていく。 尻、腰、脇腹、肩、腕、太腿。噛めないところには鬱血痕を残していく。 やがて満足した雅仁は指を抜いて自分自身をあてがった。 先端を埋めたところで一旦止まる。 「藍、きつい。力を抜け」 少し弛んだものの、まだきつい。 ゆっくりと挿入を再開する。 「ぅ、ああ」 藍が苦しそうに呻き声を上げる。 一番太い部分がおさまった。 幾度か馴らすように抜き差しを繰り返すと、藍の腰を掴み、一気に貫いた。 「あああっ」 指では届かないところを抉じ開け、一番奥をごりっと突いた感覚があった。 藍の半身が、貫かれた勢いでまた白濁を吐き出している。 奥を突きなおす度、藍が声にならない悲鳴を上げる。 一度腰を引いて先ほどの一点を抉るように突く。 「あぁっ、ぃやっ、だめっ」 時に浅く、時に深く最奥を突いているうちに、藍の声が譫言めいていく。 幾度か体位を変えて突いてから、正常位で挿入し直した。 「藍?生きてるか?」 瞳にぼんやりと霞がかかったような顔をしている藍の頬を軽く叩き、起こす。 「雅仁様ぁ」 ふっと我に返った藍は、甘えるように雅仁の首に両腕をまわしてしがみつく。 「んっ」 短い抽挿で思い切り藍の奥を貫き続ける。 「はっ、あぁあっ、んん」 堪えきれない藍の嬌声が漏れる。 「……ふっ」 「……!」 雅仁が震えながら精を吐いたのと、藍が達したのは同時だった。 ◇ ◇ ◇ 「寒くないか?」 押し入れから勝手に取り出したシーツで包んで、雅仁はその腕に藍を抱き上げた。 「大丈夫です。……あの、自分で行けますから!」 「駄目だ。さっき立てなかっただろう?それに、今の藍の姿を他の者に視られたくない」 藍としては、着衣を少し乱して色気の溢れる雅仁の姿の方が、他の誰にも視せたくないのだが。 雅仁は有無を言わせず部屋を出て廊下を進む。 湯殿に着くと、藍を洗面台に腰かけさせ、自分の浴衣を脱ぐと、藍のシーツを剥いだ。 「藍の浴衣はどうする?」 藍は洗面台の横の扉を指し、言った。 「隣の脱衣籠に入れてくださいませ……後で洗います」 扉を開けると、隣も湯殿だった。おそらくこっちは使用人用なのだろう。脱衣籠に浴衣を入れて藍の元に戻る。 藍を抱き上げると、硝子扉を開けた。 深夜にも関わらず、もうもうと湯気を上げて、いつでも入れる状態だ。 「常に風呂の支度をしてあるのか?」 「ぬし様がいつ入るとおっしゃるか分かりませんから。掃除の時以外はいつでも入れるようにしています」 藍を椅子に座らせると、シャワーから湯を出した。 「たぶん、少し染みるぞ」 肩から少しずつ湯をかける。時折、ひくり、ひくりと藍の肩が揺れる。 雅仁は石鹸を泡立てて、藍の肌に触れるか触れないかくらいの距離で優しく洗った。 「後ろはどうする?自分でやるか?」 「じ、自分で。雅仁様は湯に浸かっていてください」 「なら、ちょっと待て。俺も体を洗うから」 雅仁は手早く自分の体を洗うと、藍に背を向けて湯に浸かった。 藍は慣れた手つきで後処理を済ます。 鏡に映った自分の姿は、いたるところに赤い痣と噛み傷ができていて痛々しかったが、その一つ一つが雅仁が愛してくれた証だと思うと、自然と頬が綻びるのを止められなかった。 「藍?大丈夫か?」 ぱしゃりと水音がして雅仁の声が響く。 「はい。終わりました」 「こっちにおいで。温まりなさい」 藍が雅仁の傍に体を沈めると、雅仁の膝の上に抱き上げられた。 「あっ、わっ」 藍が慌ててバランスを崩しかけると、雅仁はくくっと笑って抱きとめた。 「落ち着け。何もしないから」 藍に頬を寄せると、肩まで湯に沈んだ。

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