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第13話 事後
雅仁が目を覚ますと、すでに日が上っていた。
庭の紅葉に陽光が透けて美しい。
物憂い中布団から起き上がってぼんやりと庭を眺めていると、襖が開いて紅月が入ってきた。
「おはよう桔梗」
風呂に入ってきたようで、髪が少し湿っている。
「おはよう。今、何時だ?」
「七時だよ。もうすぐ朝食の支度ができるから、桔梗もお湯を使っておいで」
湿った黒髪を指先で散らしながら、いつもの文机にもたれ掛かる。
「ああ、そうさせてもらおうか」
すっかり行き慣れた湯殿に入り、汗を流して軽く湯に浸かってから部屋に戻った。
戻ると、例のごとく紅月が自分の前の畳をぽんぽんと叩く。
気怠さを感じながら、紅月にもたれ掛かるようにして肘枕で横になった。
「なんだい、さすがの桔梗も疲れたかい?」
「されるのは久しぶりだったんでな」
「ふふ」
動けないというほどではもちろんないが、うっすらと倦怠感が腰を中心として広がっている。何せ夜明けまで紅月に弄ばれたのだ。
優しい手つきで、洗って乾かしたばかりの髪を紅月が撫でてくる。
「ねぇえ桔梗。このまま私のところに居てくれないかい?何も不自由はさせないよ」
「飼われるのは性に合わないな」
「んもう。つれないねえ」
温かい指先が耳をそっと撫で、そのまま手が前に回って抱きすくめられた。
「今度こそ桔梗を私のものにしたかったんだけどねえ」
唇が柔らかく首筋をなぞる。
「手紙を出したらまた来てくれるかい?」
「気が向いたらな」
「そういう冷たいことばかり言ってると、私、監禁してしまうかもしれないよ」
「愉しいことにならないのは解ってるだろう?」
そう雅仁が答えると、紅月は雅仁をきつく抱きしめた。
「……あぁあ……もう、もう、なんでお前は思い通りにならないんだい?」
雅仁は答えの代わりに鼻で笑った。
「失礼いたします。朝食をお持ちいたしました」
外から声がして、渋々紅月は雅仁を離した。
朝食はシンプルだった。アジの開きにほうれん草の胡麻和え、里芋の煮っ転がしに味噌汁と白米。
「おや、藍はどうしたんだい、宵 」
膳を運んできたのは楡と昨日の女性だった。
「体の調子が優れないようで、まだ床から起き上がれないでおります」
宵と呼ばれた女性が答えると、紅月は意地悪くにやりと笑った。
「ふふ。そうかい。まあいいよ。ゆっくり休むように言っておくれ。ただ、客人は今日帰ると伝えて」
「畏まりました」
二人が下がると、雅仁は膳の前に座り直した。
「はあ……。雅仁、藍を潰したね」
「すまん。だが、昨日は普通に歩けていたぞ」
「後から来たんだよ。それと恋患いも悪化したねえ」
「はあ」
「あの子はしっかりしてるようで純情だからねえ。これからも時々かまってやっておくれ」
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