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きみさえいれば(3)
「じゃあ俺、帰りますね」
女の子をゆっくりと下ろし、にこにこと笑うその子の頭を優しく撫でながら、龍が名残惜しそうな表情を見せた。
「すみません、わがまま聞いてもらって……。本当にありがとうございました。ほら、みちか、お礼言いなさい」
母親であろうその女性がその子の頭に手を置き、お辞儀を促す。
俺は、言われた通りにぺこりと頭を下げるその子どもの姿をぼーっと見ていた。
話を聞く限り、この女性はたまたま龍と同じ場所にいて、たまたまこの子どもが肩車をねだったのだと分かった。
別に知り合いでも何でもなくて、本当にたまたま出会っただけ。
だから、気にすることは何もない。
今日出会ったからって、これからまた会いましょうって約束をするわけでもない。
それに、龍だっていつもは公園に行くことなんてないのだ。
今日はたまたま鍵を忘れたからここにいただけ。
だけど、分かっていても胸のモヤモヤが消えてはくれない。
「おじちゃーん、また遊ぼーね!」
「こら、おじちゃんじゃないぞ? お兄さんだ」
「えー、おじちゃんはおじちゃんだよぉ?」
「みちかったら……。すみません本当に……」
「いいですよ、気にしないでください。ねぇみちかちゃん、こう見えてもお兄さんはまだ二十代なんだよ」
「ふふっ、にじゅーだい?」
俺がいないかのように、さっきからずっとなされている会話。
ぽんぽんと優しく女の子の頭に触れる恋人。
その女の子に向ける龍の優しい表情が、いつも俺に向けられるものとは少し違うような気がして。
こんな顔もするんだ……って。子ども、好きなんだなって。
俺の胸が、ずきんと痛んだ。
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