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素直になれないの(3)

  緊張が無くなるわけでもないのに、はぁ……とドアの前で深呼吸をする。 よし! と気合いを入れるかのように心の中で叫び、ドアノブに触れた。 「うおっ、孝之にぃちゃんってば超強いじゃん!」 「だろ? 俺さ、このゲームけっこう好きなんだよね」 けれど、部屋から聞こえてくる楽しそうな声に思わずその手が止まる。 拓真と先輩……? 何で……? ゴクリと唾を飲み込んで、ゆっくりとドアノブを回し扉を開けると、ぴったりくっついてゲームをしてる弟と先輩の姿があった。 「あ、にぃちゃん! すっげぇんだよ、孝之にぃちゃん、超つぇーの!」 「お、湯野、飲み物さんきゅーな」 「……、」 一瞬だけ俺の方を向いてそう叫ぶ拓真に続いて、先輩も一瞬だけ俺の方を見て声をかける。 だけどすぐに画面に向き直り、ゲームへと戻ってしまった。 「ちょ、孝之にぃちゃん! 今よそ見したからちょっとやられたじゃんか!」 「うっせ、拓真見てろよ? 俺の手にかかればこんなの……、ほら!」 「うわ、すっげぇ! うちのにぃちゃんとは比べものになんないや」 「何? 湯野って弱いの?」 「うん、めっちゃ弱い! 相手になんねぇもん!」 ピコピコとボタンを押しながら、二人でははっと笑い合う。 視界に入ってくるその光景と楽しそうなその声のせいで、頭がズキズキと痛くなる。 俺といる時だってそんな笑わないくせに。 俺のことは湯野って名字で呼ぶくせに、何で拓真には拓真って、下の名前で呼んでるの? 拓真だってそんな密着して座らなくていいじゃん。 俺だってそんな近くに座ったことないのに。 孝之にぃちゃん……? 何でそんなに先輩の下の名前を気やすく呼んでんの。

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