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素直になれないの(5)

予想通りの返答に自然と頬が緩む。 このタイミングで来るお客さんに腹を立てながら出たけれど。 この二人だし、しかも拓真を連れ出してくれるらしいし、こんな嬉しいことはない。 充くんと尚くんが今すごい天使に見える。 これで本当に先輩と二人きりだ。 最初はそれを気まずく思っていたものの、状況が変わった今は絶対に先輩と二人きりがいい。 さっきまで沈んでいたテンションも一気に右上がり。 “先輩とふたり~♪”なんて心の中で歌を歌いながら、再び数段飛ばしで階段を駆け上がった。 さっきとは違う感情でドアノブに触れる。 けれど、中から聞こえてきた言葉に力が抜け、ドアノブに触れていた手がだらんと落ちた。 「拓真って兄ちゃんにそっくりだって言われるだろ?」 「んー、顔はね。顔はそっくりって言われるよ」 「顔は……って、ははっ。そうか、中身は違うもんな? 拓真の兄ちゃんはどっちかって言ったら無愛想で素直じゃねぇけど、拓真は愛嬌あって可愛いもんな」 「えー、俺可愛いって言われても別に嬉しくねーし」 「可愛いは褒め言葉なんだけどな」 「えー……」 “湯野、たまには素直になれって” “ゆーの、そこは喜ぶとこだろ?” “可愛く笑ってみたりしろよな” “ほんっと、素直じゃないんだから” 可愛いなんて……、俺には言ってくれたことない。 「……っ、」 ぶわっと一気に涙が溜まり、視界がぼやける。 俺はその涙がこぼれないように服の袖でごしごし拭いて、それからもう一度ドアノブに触れ、力を入れて回した。

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