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素直になれないの(6)

「たく、ま……、下に、充くんと、尚くんが、来てる」 部屋の入り口に立ったまま、震える声でそう言った。 「まじ? 分かった! じゃあ俺遊んで来る!」 ちょうどゲームがキリのいいところで終わったんだろう。にかっと嬉しそうに笑って、ゲームを手に取り立ち上がった。 「充たち何するって?」 「野球……」 「野球かぁー! じゃあグローブとバット持って行かなきゃな」 「そうだね……」 拓真の顔がちゃんと見れない。 大好きな弟だけれど、今は……今だけは、どうしてもそう思えなかった。 こんなふうに考えてしまう自分はすごく最低に思えるし、嫌いだ。醜い嫉妬心。 「あ、孝之にぃーちゃん、また来てねー!」 そんな俺の気持ちも知らずに、拓真は先輩にそう声をかけると、俺に向かって行ってきますと言った。 にいっと顔を最後に、ドアが閉まり、勢いよく階段を下りる音が聞こえる。 拓真がいなくなってから、一気に部屋の空気が重くなる。 それも全部、俺の気持ちのせいなんだけど。 「拓真、可愛かった」 しんとした沈黙を破るかのように、先輩が口を開いた。 けどその言葉も、俺にとってはすごく嫌な言葉だ。 「騒がしくて、すみません」 何て言えばいいのかなんて分からないから、謝ってその場を誤魔化す。 そのまま違う話題に、って思ったけど先輩が言葉を続けた。 「別に気にすんなよ。てかあれだな? 同じ兄弟なのに全然性格違うんだな?」 “無愛想で素直じゃない” さっきの先輩の言葉が、先輩の声で、頭の中に流れる。 「……っ、ひ……」 もう、我慢出来なかった。

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