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素直になれないの(8)
「あーもう泣くなって。悪かった……、悪かったから」
「たか、ゆ……先ぱ……」
俺の顔を覗き込んで何度も謝る先輩の名前を、初めて、そして小さな声で呼んでみた。
先輩は、一瞬だけはっとした表情を見せると、それを隠すかのように手で顔を覆って怒ったように叫んだ。
「湯野! そーゆーとこ、本当やばいから!」
“ああもうまじで知らねぇからな!”
「……っ!?」
ガシッと先輩に強く手を掴まれ、そのままベッドに押し倒される。
真剣な表情の先輩とその後ろに見える白い天井に戸惑い、目を逸らしてしまった。
何で俺、押し倒されてんの……?
「今日はお前とゆっくり話したくて家に来たけどやめたわ」
「先輩……?」
「可愛い、陽呂が悪い」
「先ぱ……、陽呂って……、んぅ、」
「……無愛想なのも、素直じゃないのも。弟に嫉妬するのも、名前呼んだだけで喜ぶのも……、全部が可愛い」
先輩の言葉、それからキスのせいで体が熱くなる。
目線は逸らしたままだけれど、きっと先輩だって真っ赤になってると思う。
恥ずかしい。恥ずかしいよ。
先輩のことで泣いたり照れたりして。
この人はどれだけ俺を振り回す気なの? どれだけ、好きにさせれば気が済むの?
こんな状況じゃしばらく顔が見られないって、目を瞑った時、先輩がまた口を開いた。
「全部が可愛くて、全部が好き」
「……っ、」
その言葉に、きゅうっと胸が締め付けられた。
ますます恥ずかしくなってどうしたらいいのか分からない。
嬉しさやら照れやら何やらでまた涙があふれ出す。
俺は今、きっと変な顔してる。けれど、先輩がどんな顔で言ったのか気になって。
逸らしていた視線を先輩の方へと向けた。
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