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修学旅行(2-3)

寝ている吉岡を前にして、起きたらどうしようとか、バレたら怒るだろうかとか、そんなことは全然頭になくて。 「やっべ……」 俺はそっと目を閉じて、自分の唇に触れてみた。 よみがえってくる吉岡の唇の感触。 思い出したせいで、心臓のドキドキが止まらない。 ゆっくりと目を開けてみれば、視界に入るのは寝息をたてて気持ちよさそうに眠る吉岡。少し開いた唇の隙間から、息が漏れている。 「……っ、」 吉岡の唇、柔らかかった。 吉岡、可愛い。 もう一回だけ、キスしたい。 そっと手を伸ばし、指先でその柔らかな唇に触れる。なぞるようにしてゆっくりと指を動かした。 少しだけ湿っている吉岡の唇が、俺の指についてくる。 「吉岡、」 触れたい……。 あと一度だけでいいから、その唇の感触を……。 「……、ん?神崎……」 俺の唇が吉岡の唇まであと数センチでくっつく、ってところで、吉岡がゆっくりと目を開けた。 気持ちよさそうにぐっすり寝ていたから、まさか起きるなんて思ってなくて。 俺は慌てて吉岡から離れた。 まだ寝呆けてる吉岡はどうして俺の顔が近くにあったのかなんて気にすることもなく、欠伸をしながら目を擦っている。 「……足、大丈夫か? タオル忘れてたから持って来た」 そんな吉岡に何もない振りをして声をかけるも、動揺して半端じゃない心拍数の俺の心臓。 バクバクうるさくて、吉岡にまで聞こえてしまいそうなくらい。こんなことは初めてだ。 「うーん……、まだ痛い。先生戻って来たら病院行くみたい」 「そっか」

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