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修学旅行(3-1)
はぁ……。
ついに来てしまった。
部屋のドアを前にして、手汗がひどくなる。
吉岡とこれから明日の朝まで、この部屋で二人きり。そう考えると、少しだけ震えも来た。
緊張だけじゃあない。色んな、ぐちゃぐちゃに混ざり合った感情のせい。
後ろにいる吉岡に意識を向けながら、部屋のドアを開けた。お互い無言のまま部屋に入り、部屋の作りがどうだとか、どっちのベッドがいい? だとか、そんな会話は一切なしに、俺は右側のベッドに荷物を置いた。
バッグを開き必要な物を取り出し、ベッドに並べる。しんとしたこの部屋に、自分の心音だけが響いているような気がしてきた。
「神崎……、先に風呂、いいよ」
突然、後ろから吉岡の小さな声がした。何となく、震えているように聞こえる吉岡の声。
俺と一緒だから嫌だよな。
別に寝顔を見られたところで、そもそも吉岡は俺のものじゃあないんだから。
俺がどうこう言う権利なんかなかったんだ。
滝沢か平井のどっちかにしてやれば良かった。
せっかくの修学旅行なのにこんな俺とじゃ嫌だよな。
「なぁ、神崎……」
俺が返事をしないから、吉岡が俺の名前をもう一度呼んだ。
さっきとは違って何となくではなく、明らかに声が震えている。
俺の態度が悪いし、何度も避けてるから、話しかけるのも怖いんだろう。
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