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修学旅行(3-4)
「やっぱそうだったんだ」
「そうって、何だよ」
「そう、は、そう、でしょ」
「……。」
平井は何か分かったような顔で、俺の元へ一歩近づいてきた。思わず一歩、後ろへ下がると、それを見てまた平井は笑った。
「吉岡とよそよそしいのも。二人部屋は吉岡とがいいのも。今こうやって廊下にいんのも。そう、だからだろ?」
「……だったら悪いのかよ」
「さぁね。何もしないようじゃ悪いのかも。逃げてばっかじゃ、やっぱね、悪いんじゃない?」
くくっと、さっきからずっとおかしそうに平井が笑ってるのが気に入らない。いったい何が分かってるって言うんだよ。
“神崎が取り乱したり、考え込んだりするの見んの、まじおもしろい。”
失礼すぎるだろ。
普段滝沢みたいには無駄にしゃべることがないからか、平井はこういう時だけ無駄なことを言う。
「お前に俺の気持ちが分かるかよ。傷つけたくないから、こんなふうになったんじゃん」
「……、結局傷つけてるけどね」
「うるせぇ」
どこまでもムカつく奴だ、本当に。
平井には俺の気持ちなんか分かるわけないんだ。
「気持ちは、分かるよ。俺だって同じだしね。傷つけたくないから変わらないポジションにいて、アイツを困らせないようにしてるし」
「は?」
「でも俺はお前とは違う。行動は起こすつもりだよ。せっかく二人きりになるチャンスがあるんだし」
「……え、」
「滝沢は俺のもん。じゃ」
「は?」
飲み物でも買いに行くつもりだったんだろうか。ひらひらと俺に向かって振られた平井の手には財布が握られている。
それから来た道を戻って行った。売店は平井たちの部屋の方にあるのだからわざわざこっちに来なくたって良かったのに。
俺にこんなことを言うために、こっちに来たっていうのか?
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