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修学旅行(5-1)

唇を離すと、吉岡をぎゅうっと抱きしめた。 柔らかな髪が、鼻をくすぐる。 初めて抱きしめたその体は、思った通り小さくて。今まで必死に押し込めてきた想いが、一気に膨らんだ。 「吉岡……」 無視してごめんな。 泣かせてごめん。 キスしてごめん。 ……好きになってごめん。 「ごめんな、」 たくさんの“ごめん”を込めて、さっきよりも強く抱きしめると、俺の胸元が熱くなった。涙がじわりと服に染みていく。 それまで冷たかった吉岡の体も、熱を帯びてきて。腕の中の彼は、とても温かい。 小刻みに震えるその小さな体が、流れる涙が、漏れる嗚咽が、何もかもがたまらなく愛しい。 「好きだ……」 今まで言えなかった言葉が、ふと口からこぼれた。 好き。 好き、なんだよ。 「好き……」 一度言ってしまったら、もう止められない。今まで言えなかった想いが言葉になって、体中からあふれ出る。 「吉岡、」 「……っ、あ」 「大好き、」 好きになりすぎて、気持ちを止められなくて。 勝手な想いで吉岡を傷つけたけれど、それでもやっぱり好きで。 ただただ怖かった。 気持ちを言って嫌われることが。 結局、ひどいことして傷つけてしまったけれど。 自分を守るのに必死だった。 軽蔑の眼差しを向けられたらきっと、耐えられないって。 ずっと、気持ちを言えなかった。

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