43 / 224

修学旅行(5-4)

なぁ、吉岡。 “うん”じゃあないだろ……? そんなふうに抱きつかれたら、俺、我慢できないよ。 今すぐ振り返って、抱きしめ返して、キスをして。そしたらキスだけじゃあ足りなくなるに決まってる。 「吉岡、いい加減にしろっ」 俺が吉岡を傷つけたのは事実だけれど。勝手だと分かってるけれど。 お願いだから、これ以上苦しめないで。 吉岡の手の上に自分の手を重ねる。 それからその手を掴み、俺の体から引き離そうと引っ張った。 けれど、力を入れれば入れるだけ、吉岡の力も強くなって。全然放してくれない。 「吉岡っ、」 顔だけを後ろへと向け、泣いている吉岡の名前を呼ぶ。泣くほど嫌なら、早く離せばいいじゃないか。 「吉岡、離せ……!」 「……嫌!」 「いい加減にしろ、よ!」 「いい加減、にする、のは、神崎、だ、ろ……っ」 じわりと背中が温かくなる。吉岡が俺の背中に顔を埋めたのだろう。涙が服に染みてくる。 「俺、分かって、るよ……! 分かってる、から、だから、こうして、るんだろ……っ」 突然、泣いていた吉岡が声を張り上げた。 過呼吸気味になっていて、途切れ途切れだけれど、それでもはっきりと聞こえる。 「吉岡……? 何言って、」 分かってるって、分かっててやるって。 なぁ、吉岡。 それってさ、それって──……。 「俺だってっ、好きなんだよ、」 「……っ、」 「神崎が、好き……っ、」 あぁ……、もうダメだ。涙が出そう。 目頭が熱くなって、視界が歪む。 「神崎、好き……」 「……ん、」 「好き、」 「ん……」 「好きな、のっ」 「ん……、」 我慢しようって、歯まで食い縛ったのに。大粒の涙が、俺の頬をつたった。

ともだちにシェアしよう!