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修学旅行(5-4)
なぁ、吉岡。
“うん”じゃあないだろ……?
そんなふうに抱きつかれたら、俺、我慢できないよ。
今すぐ振り返って、抱きしめ返して、キスをして。そしたらキスだけじゃあ足りなくなるに決まってる。
「吉岡、いい加減にしろっ」
俺が吉岡を傷つけたのは事実だけれど。勝手だと分かってるけれど。
お願いだから、これ以上苦しめないで。
吉岡の手の上に自分の手を重ねる。
それからその手を掴み、俺の体から引き離そうと引っ張った。
けれど、力を入れれば入れるだけ、吉岡の力も強くなって。全然放してくれない。
「吉岡っ、」
顔だけを後ろへと向け、泣いている吉岡の名前を呼ぶ。泣くほど嫌なら、早く離せばいいじゃないか。
「吉岡、離せ……!」
「……嫌!」
「いい加減にしろ、よ!」
「いい加減、にする、のは、神崎、だ、ろ……っ」
じわりと背中が温かくなる。吉岡が俺の背中に顔を埋めたのだろう。涙が服に染みてくる。
「俺、分かって、るよ……! 分かってる、から、だから、こうして、るんだろ……っ」
突然、泣いていた吉岡が声を張り上げた。
過呼吸気味になっていて、途切れ途切れだけれど、それでもはっきりと聞こえる。
「吉岡……? 何言って、」
分かってるって、分かっててやるって。
なぁ、吉岡。
それってさ、それって──……。
「俺だってっ、好きなんだよ、」
「……っ、」
「神崎が、好き……っ、」
あぁ……、もうダメだ。涙が出そう。
目頭が熱くなって、視界が歪む。
「神崎、好き……」
「……ん、」
「好き、」
「ん……」
「好きな、のっ」
「ん……、」
我慢しようって、歯まで食い縛ったのに。大粒の涙が、俺の頬をつたった。
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