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修学旅行(6-1)
◆吉岡side◆
神崎のお腹に手を回し、ぎゅうっと服を掴む。
久しぶりに名前を呼ばれて、久しぶりに触れられて。それから、初めてキスをされて。
自分と同じ想いを抱いてたって知らされて。
嬉しくないはずがない。
抱きついている神崎の体が小刻みに震えているのも、俺を好きだからだと思うと胸がいっぱいになる。
突然俺への態度が変わったのは、すごく傷ついたし悲しかったけれど。
俺のことが嫌いなんじゃあなくて、好きだったからだと分かった今は、もういいやって、そう思える。
「……ぅ、」
時折漏れる、神崎の小さな嗚咽。
泣いているってバレているのに、声を我慢する神崎に、俺の口元が緩む。
だって普段の神崎は、“泣く”イメージが全くないから。
俺のことが好きだと、大好きなんだと改めて感じられて、もっともっと神崎を好きになる。
「神崎、好き……」
「ん、」
「ねぇ、こっち、向いて……」
顔が見たいよ。
今度はさ、俺の顔を見ながら好きだと言って。
俺は腕に力を入れ、神崎の体を自分の方へ向けようと試みた。
「ちょっと待って、」
「神崎、顔……見たい、」
「今は無理っ、俺、かなりダサいから」
なかなかこっちを向こうとしない神崎。
俺は神崎の服を掴むのをやめ、素早く神崎の正面に移動した。向いてくれないのなら、俺が動くまでだ。
「ばっか! お前、」
神崎は慌てて顔を隠したけど、目に光る涙はばっちり見えた。
「いいじゃん、電気、消してるんだから。はっきりとは見えないし」
そう言って両手を広げると、「ああもう、本当……」なんて言いながらも、優しく抱きしめてくれる。
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