51 / 224
修学旅行番外編(1-3)
「やめて欲しい?」
「うん、やめ……て」
「やっぱ裕はばかだよ、本当に」
やめてと言われてやめる奴がどこにいるって言うんだ。
少なくとも俺は、やめてあげる親切な奴じゃあない。
体を捻って抵抗する裕也の耳を、はむっと唇で挟んでやった。
「な、に……っ? 平井、今日変……っ」
「“陽ちゃん”って、もっかい呼んでくれたらやめてあげる」
「や、やだ。ぜって、ぇ、呼ばね……っ」
裕也の体に回した俺の手を、力強く掴むと爪を食い込ませてきた。
そんなことしても、離してなんかやらない。やめてなんかやらない。
「ゆう」
そのまま舌先でぺろりと耳を舐める。
「ぁ、やだ、」
「ゆーう」
「呼ばねぇってば、」
「じゃあやめない」
“陽ちゃん”なんてすぐ呼べるのに。なんでここまで意地になるかな。
俺は裕也の耳で遊ぶのをやめ、首筋に舌を這わせた。
風呂上がりの裕也からは、石鹸の良い匂いがする。
「んっ」
小さな声を漏らして、裕也が身をよじる。
抵抗する力は弱くなったけど、それでも嫌がってるのは分かる。
嫌がってるのに、それでもまだ“陽ちゃん”って呼んでくれない。
ねぇ、裕也。どうして……?
「ゆう」
「な、に、」
俺はいじめるのをやめて、裕也を自分の方に向かせた。
少しだけ息が上がって、うるうると瞳が濡れている。
俺は両手で裕也の頬を包み込み、そのままコツンとおでこをくっつけた。
「高校生にもなって“陽ちゃん”って呼ぶの恥ずかしいの?」
俺から目を逸らして欲しくなくて、しっかりと裕也を見つめる。
ともだちにシェアしよう!