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修学旅行番外編(1-4)
「違っ、」
「じゃあ何? “陽ちゃん”が嫌いになった?」
「……違う!」
「違う? でも幼なじみで名字呼びって普通なくない? お前に“平井”って言われると内心イラッとすんだよね」
うそだよ。イラッとなんかするわけがない。
ただ、生まれた時から一緒で、物心ついた時からずっと“陽ちゃん”って呼んでたのにさ。
高校に入って突然、理由も知らないのに幼なじみから“平井”なんて名字で呼ばれたら、なんとなく他人行儀に感じるだろう?
喧嘩したならまだしもさ。
突然どうしたんだよ、って。
今までは何だったんだろう?って。
なんかなぁ、寂しいんだよね。
俺には“裕”が必要なのにーってさ。
まぁ俺の場合は裕也のこと好きだから、必要なのは仕方ないんだけど。
いつも当たり前のように一緒にいるの、実は迷惑だったんじゃあないかとか、考えたりもするんだよなぁ。
「いつも一緒にいるのって疲れた?」
でもね、ずっと“幼なじみ”で我慢してきたんだよ……?
「俺と幼なじみってのが嫌?」
だから無理に“平井”なんて呼ぶの?
「裕也、」
返事をくれないのは事実だから?
俺の言葉に黙ってぽろぽろと涙を流す裕也。
あーあ、泣いちゃった。
何年ぶりだっけ、泣かせてしまったのは。
「ゆーう、泣かないで。ごめんね、強く言い過ぎた」
そう言って頬をつたう涙を優しく掬うと、裕也はぎゅっと俺の服を握った。
「ゆう?」
「だって、」
「ん……?」
「みんな“陽ちゃん”って呼ぶじゃん……!」
ぎゅうっと、服を握る力が強くなる。
それと同時に、大粒の涙がぽたぽたこぼれ落ちた。
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