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好みは違えども(1)

『目玉焼きは醤油とマヨネーズだろ』 『はぁ? 何言ってんの。ケチャップに決まってるじゃん』 毎週一度、朝食に目玉焼きを出す我が家は、毎回その度に喧嘩になる。理由は簡単だ。目玉焼きに何をかけようが関係ないのに、いつも智宏が自分が使うケチャップしかテーブルに並べないから。 ……今日はその目玉焼きの日。 智宏のことだからどうせケチャップしか準備してないだろう。 どうして準備しないのか、と責める前に自分で取りに行けばいい。そうしたらもう喧嘩にはならないから。けどまぁ、そのくらいケチャップを出すついでに準備して欲しいって思うけれど。そんなことを考えながら、一度椅子に座ったものの、醤油とマヨネーズを取りに行くために立ち上がった。 だけど、ふとテーブルを見れば、今まさに取りに行こうとしていたものが置いてある。 「え? 智宏? 何で……」 俺はびっくりして言葉に詰まり、目の前にあるそれらを指差した。 しかも、ケチャップがテーブルにないとは何事だ……? ますますワケが分からなくなり、頭が困惑してくる。 「別にいいじゃん。祐一郎さんは醤油とマヨネーズがいいんでしょ」 それなのにコイツときたら、しれーっとした顔で一言言うだけ。全くもって意味が分からん。 「もう別にどうでもいいじゃん。早く食べなよ」 少し怒ったように智宏はそう言うと、醤油とマヨネーズを目玉焼きにかけた。 本当に意味が分からない。 だけど、どうしたんだ? と聞きたくても、無言で黙々と目玉焼きを食べるコイツを見たら何も言えなくて。 俺もいつものように醤油とマヨネーズをかけて食べた。

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