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好みは違えども(2)

──…… 家に帰ると、部屋には香ばしいチーズの香りが漂っていた。 「今日はグラタンか」 そう言って智宏を見れば、お帰りと微笑んでくれる。その笑顔があまりにも可愛くて、自然と俺の頬も緩む。 ……けど、俺はグラタンよりドリア派なんだよなぁ。智宏はマカロニが好きだからなんだろうけど、何度言ってもマカロニのグラタンが並ぶ。どうせなら二つ作ればいいのに。 そんな勝手なことを思いながらネクタイを取り、椅子に座った。 「いい匂いだな」 「そりゃチーズたくさんかけてますから」 いつになったらこの家でドリアが食べられるんだろうか。目の前のグラタンを見て、そんなことを思わず言いそうになった口をぎゅっと結んだ。 これも毎回喧嘩になってるだろ? 言っても無駄だぞ、俺……! 今日は何も言わずに食べよう。 別にグラタンだって嫌いなわけじゃないんだし。 「え……?」 朝と同様、びっくりして智宏を見ると、頬を真っ赤にして、また怒ったような顔をした。スプーンで掬えば、そこにマカロニは一切なく。俺の大好きなお米が乗っている。 本当に何があったんだ? ……どうして今日はグラタンじゃなくて、ドリアなんだ! 嬉しいを通り越して怪しいだろ、これは。 「智宏」 スプーンを置いて名前を呼ぶと、智宏の肩がビクッと震えた。 「俺に何か隠してるのか?」 「隠してない……!」 「怪しいぞお前。俺にバレたくない秘密でもできたのか?」 「は? そんなわけないじゃん! 祐一郎さん、何言ってんの」 だったらなぜ目を合わせない? だったらなぜいつも通りじゃない? だったらなぜ、そんなに動揺してる? ──まさか、浮気……? 俺は立ち上がると、前に座っている智宏の手を掴み、無理矢理立たせた。

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