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好みは違えども(3)
「何すんだよ……!」
「いいから来い!」
キッと睨んで、手足をバタつかせて抵抗する智宏。だけど、そんなことは関係ない。どうせ力は俺のほうが強いんだから。
俺は智宏が「痛い」と泣きだすくらいに強く手首を握り寝室まで連れて行くと、そのままベッドに押し倒した。
「祐一郎さ……」
「隠してること言ってみろ」
「だから隠してないって言ってるじゃん!」
「お前、浮気してんのか?」
そう言って無理矢理口付ける。智宏は一瞬目を大きく見開いて俺を見た後、声をあげて泣きだした。
「智宏……?」
「浮気って何だよ、それ! お、俺が、浮気する、とか、思ってる、わけ……?」
「いや、違うけど……。お前がおかしいから」
「祐一郎さん、の、好きなもの、作っただけじゃん……っ。今までは、俺が作って、やってるんだから、文句言うほうが、おかしいって、思ってた、けど、祐一郎さん、いつも、おいしいって、最初に言って、くれない……から、」
「え……?」
「食べてすぐに、おいしいって、言って欲しくて、好きなもの、作った、だけ……」
「智宏……」
「俺、祐一郎さん、好きだもん。愛想尽かされんの、やだぁ……」
「……っ」
好きだなんてめったに言わないのに。
泣くことだってめったにないのに。
「智宏……」
「うわ、き、とか、しないよ、」
「うん……、ごめん」
「ゆうい、ちろ……さん、が、すき……だも、ん、」
「ごめんな……」
俺は智宏にそっとキスをし、抱きしめた。
肩を震わせて泣きじゃくる智宏に、申し訳なさが増した。
「ごめん」
「ゆういち、ろ、さ……」
「ごめん……。俺もお前が好きだから」
俺のために俺の好きなもの作って、俺を思ってこんなに泣いて。
「ひぅ……、くっ……」
「愛してる」
たまらなく愛おしいとそう思う反面、これまでの言動を反省した。そうだった。いつも文句ばかりで、せっかく作ってくれた料理をおいしいと真っ先に褒めたことはなかったかもしれない。俺好みのものを作ってくれればいいのに、なんて勝手なことばかりだったな。
「智宏……、せっかくの料理が冷めてしまうから、戻って食べよう。無理矢理こんなことして本当に悪かった」
「……ぎゅうして、」
「ん?」
「今は、ご飯いいから、」
「智宏……」
それからも智宏はなかなか泣き止まなくて、俺からもずっと離れなくて。結局ドリアは温めなおしてから食べた。
END
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