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ミサンガ(3)

◆雅宏side◆ 正直、かなり驚いた。あいつに好きな奴がいるなんて思ってもみなかったから。 むかつく。いつも一番近くにいたのは俺なのに。あいつの好きな奴が誰なのか、全然分からない。 「でも、今日のはちょっと言い過ぎたな」 それとなく謝りに行こう。そう思って俺は、祥汰の部屋へ勝手に侵入した。 ベランダを伝って、祥汰の部屋の窓から。 「うわっ、おま……、びっくりすんだろーが。窓を叩くとかさ、そういうことしてから入れよ」 風呂から上がったばっかりらしく、髪をタオルでガシガシ拭きながら祥汰が文句を言う。 俺がこういうふうに部屋に入ってくるのはいつものことじゃん。もういまさらだろ? 「うるせーな、……って、お前ミサンガは?」 ちょっと拗ねた振りをして足を蹴ろうとした時、俺は祥汰の足にミサンガが無いことに気付いた。 あれ? 今日の体育の時間にはまだしてたのに。 「切れるの早くね?」 「別にお前には関係ないだろ?」 「はぁ? 関係なくても気になるじゃん」 「気にすんな」 「祥汰!」 思わず腕を掴むと、思いっきり振り払われた。 「切ったんだよ。もう必要なくなったから、自分で切ったんだ」 「何でそんなことすんの?」 ソイツのことすげー好きなんじゃねぇの? 「振られたから。絶対、好きになんないって、そう言われたから」 祥汰は壁にもたれると、そのままずるずる滑ってしゃがみ込んだ。 「は? 何それ。誰に言われたんだよ」 俺も、うずくまる翔太と同じようにしゃがんだ。それから、そっと頭に触れようと手を伸ばしたのだけれど。 ぱちんっ。 ばっと顔を上げた祥汰に手を払われ、あげくに頬をぶたれた。 「祥汰、てめぇ」 「誰が言ったのかって……? ふざけんのも、いい加減にしろよ! お前が言ったんだろ……! 俺のこと好きにならねーって、お前が、お前が言ったんじゃん……!」 睨みながら俺を見るその目にだんだんと涙が溜り、そして一気に溢れだした。   

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