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だって好きだから(3)
ドーンッ!
「……っ、」
それなのに、後ろから聞こえてきた大きな音に振り向いてしまった。
何かにつまずいて転けたらしい。愁は床に俯せになって泣いていた。
「ああもう、本当に何なの」
イライラする。コイツにも、こんなコイツを可愛いなんて思ってしまう俺にも。
「あー!」
髪をぐしゃぐしゃに掻いて、俺は靴を脱ぐと、泣いている愁の傍に行った。
「たつ、みぃ……」
「起きろって」
「行かないでっ」
「行かないから。もういいよ、俺が我慢する」
はあーって、わざと大きなため息をついてみせると、愁が顔を上げ、じっと俺を見つめた。
「んだよ」
「辰巳……」
「うおっ」
驚いてそのまま床に尻餅をつく。
さっきまで俯せになって泣いていたくせに、愁はのそのそ起き上がって俺に抱きついてきた。
おいおいだからいい加減にしろって、それをさっきから言ってんだよ俺はさ。
我慢するとは言ったものの、こんなことをまだするって言うなら話は別だ。
俺は、愁を引き離そうと腕を引っ張った。
けれど。
「抱いてよ」
愁の口から発せられた言葉は、信じられないもので。
「……は?」
愁を引き離そうとする手を止めてしまった。その隙に、もっと強い力で愁が俺に抱きつく。
「俺のこと好きなら今すぐに抱いてよ」
「お前何言って……」
「たつ、みぃ」
泣いている愁の体が小刻みに震えている。小さな嗚咽まで口から漏れていて。
どうしたんだよ、なぁ。
「お前が三ヶ月って言ったんだろ?」
「言ったけど……!」
「だから俺は我慢してんだぞ」
抱きつく愁の肩を掴み、無理矢理力ずくで引き離した。
目を見てはっきりとそう言えば、愁は顔を歪めてさらに泣き出す。
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